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書きたい!だから書く

1 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 10:32
書きます。

2 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 10:34
               「定点」

パチッパチッと蛍光灯に電気が走る音で私は、目覚める。
決まって夕方の5時くらいだ。深夜の0時にはふたたび
眠りにつく。

夕刻の繁華街 

        「おはようございます」私の脇で
若者が道路の反対側に向かい、声を掛ける。
「おはよ〜〜!お稼ぎなさい」通りの向こうから毎日決まって
だみ声のしかし、心のこもった返事がある。幅6mはあろうか
という道路越しでのあいさつが交わされる。
歳の頃、40代半ばきれいに化粧をしたお姐さんである。
お姐さんではあるが男性である。

ある日、若者は初めて彼女に「おはようございます」と
おそるおそる声をかけた。その時、「おはよ〜〜! お稼ぎなさい」と
返ってきた。若者は、なぜかうれしい気分になり、それからというもの
夕刻のあいさつが日課となっていた。彼女のお店の名前も知らない。
あいさつの言葉以外は話した事は無い。勿論
名前もしらない。そんな関係である。

若者は、ピシッ とクリーニングに出された白いワイシャツ
襟もとには黒の蝶ネクタイ。歳の頃、22〜23とい所で
あろう。若者は隣の洋服屋の店員に声を掛ける。「おはよう
ございます」「あっ!おはよ」店員はダンボール箱を店の外
に出す作業をしている。洋服店の前は歩道になっておりそこに
ダンボールが山になっている。

3 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 10:35
ネオン瞬く繁華街

若者はお店の売り上げを伸ばそうと必死に入り口前の歩道で
お客の呼び込みをしている。「はい!いらっしい」
どうも今日は人があまり出ていないようである。「ふっー」
とそこへ、リヤカーを引っぱってくる腰の曲がった老人が
歩道をこちらに向かってくる。歳の頃、70すぎではないか
と思われる。腰が90゚ちかく曲がり串に刺した海老のような
体勢で歩いているので見た目より老けてみえるのかもしれない。
若者は老人の方に顔を向け目だけで目礼をする。老人もなにも
言わず、首を縦に こくりと返事する。その後、洋服屋の店先
に出されてあるダンボール箱を 黙々とリヤカーに積み込む。
これが、老人の生きる糧である。ダンボール・キロ いくらに
なるのだろう。大した金額にならないだろうと想像はつくが..
若者と老人は口をきいた事は無い。
ある日、老人がいつものリヤカーを引いて此処にこない日があった。
次の日もその次の日も....溜まっていくダンボール。


深夜0時繁華街

        「ありがとうございましたー」」私の脇で
若者は最後のお客を送り出す。
「ふっーー」ワイシャツの袖をまくり、ホウキを手に取る。
これから、閉店後の掃除である。入り口脇、建物の目立たない
所にある コンセントに挿してある線を引き抜く。 パチッ

私は、眠りにつく。イメージクラブ***************
                     そう、私は看板。
パチッパチッと蛍光灯に電気が走る音で私は、目覚める。
決まって夕方の5時くらいだ。深夜の0時にはふたたび
眠りにつく。

4 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 10:36
              「雪」
純平は高校を卒業後、大学進学と順調に歩んできた。
大学生活も1年、2年と経ちそれなりに遊びも覚え
校舎のある名古屋の地にも言葉にも慣れ少し、だらけ
気味の日々を過ごしていた。時刻は夕方5時少し前
純平は背を丸め、うつむき加減に名古屋市中区錦の
テレビ塔近くを歩いていた。人というものは元気が
ない時など、知らず知らずのうちに地べたを見ながら
歩くものである。純平も御たぶんに漏れずそのくちで
ある。   「あぁ〜今日は12月23日か〜」
「はぁ〜〜彼女もいないし〜、また、今年も寂しい
クリスマスか」

5 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 10:37
加藤は名古屋市内で小さな印刷工場を経営している。
昨今の不景気の煽りで資金繰りには苦労しているが
どうにかこうにか輪転機を細々と回している状態だ。
加藤は左腕の時計を睨み、「ふっーー」とっ溜息。
「もう四時半か」夕方五時すぎに人と会う約束があった。
先月、お得様である八百屋のチラシ印刷の集金に行か
ねばならない。「おーぃ 後、頼むぞ。試し刷りを
しっかりやってから、回してくれ」加藤はアルバイト
の若者に大声で伝えた。「はぁーい 分かってまーす」
明日、12月24日 朝一番で銀行に行き、入金しなけ
れば、不渡りを出すという瀬戸際である。加藤は疲れた
顔で名古屋市中区錦のテレビ塔近くの待ち合わせ場所を
めざした。

6 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 10:38
「最近、少し太ったかな」遼子はわき腹の肉をすらっと
伸びるきれいな指でつかみ、独り言を呟いた。その仕草を
ファインダー越しに見ていた、カメラマンが「何、言ってるの
遼子ちゃん、それで太ったなんていったら世の女性達から
ブーイングだヨ!」 遼子はカメラマンに向かい ニコッ と
笑顔を 「お疲れさまでしたーーーーー」 しかめっ面をして
みせ、悪戯ぽく舌を出した。「ほい! おつかれ」 スタジオ
を後にした。ひょんな事から、ファツション雑誌のモデルを
始めるようになり遼子の生活は、ここ一、二年で劇的に変わって
しまった。華やかなスタジオから冷えた廊下のリノリュウムの
床を見つめ遼子は重い問題を思い出さずにいられなかった。
付き合っている彼のあかちゃんがお腹にいると思うと....
クリスマス前日にその事を彼に話すか話すまいか遼子は迷っていた。
今日、12月23日 堕胎するにはギリギリの時間を重ねてしまった。
「気が重いな〜〜〜」 遼子は溜息と共に待ち合わせ場所へと
歩を進めた。冬の日が沈み、闇が辺りを包みはじめる、街のビル
灯り、車のヘッドライト、ジンクルベルが流れる、さまざまな
喧騒渦巻く名古屋市中区錦のテレビ塔下の道端。遼子の背後で
「あっ!」っという声がする。雑路は年末の為か人々で混雑して
おり、あちらこちらで「なんだ!」「ゲッツ!」人ごみ全体が
ざわざわし始めてきた。  「上、うえ、空..」

7 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 10:38
純平はそのさわぎの中心にいた。夜空から雪のようなものが
降ってくる。普段、下を向いて歩く癖がつき、めったに夜空
など仰ぐ事などなかった純平はそのきれいな光景に釘付けに
なってしまい動けない。

8 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:08
集金用のセカンドバックを小脇にかかえ師走の街を歩いてい
た加藤も名古屋市中区錦のテレビ塔近くの人ごみの中にいた。
足元をみつめながら、足早に歩を進める。と道端に1ドル紙幣が
加藤は手に取り夜空のビル灯りに、そのピン札を透かしてみる
べく空を仰いだ。   風に乗りゆらゆらと雪が舞っている。
加藤は呆然と首が痛くなるまで 夜空を見上げていた。

9 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:12
平成15年12月23日 夕刻5時すぎ

その頃、ひとりの男が名古屋市中区錦のテレビ塔の展望台にいた。
展望台のいすに上り、鉄格子のすき間から、1ドル札をばらまいた。
その様子を展望台にいた三十数人の客は遠巻きに男を眺めていた。


人間は疲れたり苦しい時、哀しい時、元気のないとき うつむいて
しまう。神さまは気まぐれで、そんな人々に空を見るよう雪を降らす。



10 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:25
         「時の砂」

日々の重さが胸に染み ふと立ち止まる

頭のなかで分かっているがこころが停滞
そんな日々を綱渡

好きなことをやって生きているのだからと
人は言う 幸せと不幸せは紙一重

しあわせと気づかない不幸せな午前二時



日々の充実が遠ざかり ふと立ち止まる

頭のなかで分かっているがこころが停滞
そんな日々を綱渡

好きなことをやって生きてこれたのだから
一人納得 幸せと不幸せは紙一重

しあわせと気づかないふりする午前二時

11 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:30
            「順番」
俺は今、長い順番待ちをしている。それはそれは
ながい事待っている。

いまの生活に不満はない。しかし、楽しくもない。
俺の住んでいる所は寒くもなく熱くもない。まるで
一年中、春先のような気候である。

仕事もうまくいっている。自分の性に合っているの
かもしれない。

12 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:31
苦しい事もない。やな事もない。毎日、ほのぼの
としている。

草花は咲き、小鳥はさえずる。空腹感もないが
満腹感もない。それでいて、食べ物はなんでも
手にはいる。

世の中の苦痛という苦痛はなにもない。傍から
見れば、まるで天国のような所である。

13 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:32
俺がいま順番待ちしているのは、ある体験をしたいが
為である。

その体験とは何に例えればよいか?しいて言えば
ディズニーランドみたいなものであるかもしれない。

なぜに、おまえはこんな天国のような暮らしを捨て
そんな体験をするのか? と人は言う。

一度此処から出てしまうと、もう今の暮らしには戻れ
ないのである。

戻れないというのは語弊があるかもしれない。えーっと
戻れないのではなく戻った時に今の生活より良くなる
可能性もあるし、悪くなる可能性もあるという事である。

そのような、リスクがその体験にはつきまとうのである。
しかし、俺はリスクよりも リアルな体験がしたい。
今の生ぬるい生活を捨てても リアルな感覚がほしい。

14 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:33
世間は今、クリスマスシーズンである。どうやら
俺にもプレゼントが届いたらしい。

一枚のハガキが来た。とうとう体験の順番が来た。

俺はそのハガキを見るなり百年待ったかいがあった
と思った。明日が待ち遠しい。

15 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:35
俺は次の日、ハガキの文面に書いてある所定の
場所に赴いた。

そこには、受付に向かう長蛇の列が出来ていた。
俺は気長に待った。

「次の方どうぞ」 俺の番だ! 「はい」 「それで
はここにお入りください」 俺は目の前にある カプ
セルの中に入った。

16 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:37
暗い、真っ暗なトンネルのなかを抜けていく
感じだ。

「なんだ、苦しい、苦しい、狭い、狭い、なにも
見えない」

俺はいままで味わった事のない閉塞感に不安
な気持ちでいっぱいであった。

17 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 11:55
「オギャー オギャー」  「元気な女の子ですよー」

俺は今この世に生まれてきた。百年待ったのである。

肌に伝わるベットの冷たい感覚、看護婦の暖かい手の
温もり。リアルに...


そう、この世はすべて 実感がある世界なのだ。
ディズニーランドの 100倍はおもしろいかもしれない。



18 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 13:18
             「レクレイム」

僕はキックペダルに足を掛け蹴った。ボッボッボッボボボッ
いまにも止まりそうな弱々しい排気音。
「おっ!おはよう 早いね」「お..お はようございます」
僕は眠い目をこすりながら とぼとぼと歩き販売店に向かう。
全開にあいている戸をくぐりさんさんと照らす蛍光灯の明かり
下、台の上に乱れなく紙端を揃え佇むチラシの束。

僕は自分の受け持ち部数分のチラシを新聞紙に挟んでいく。
手を無意識に動かす作業にだんだんと体の細胞達が起きて
くるのが分かる。

重い朝刊の塊。を前カゴ、後ろの荷台に縛りつける。ふと
空を見上げると星がキラキラ瞬く。真夏の午前 3:58

19 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 13:20
ボッボッボッボボボッ キィィーーーーブレーキ止まるバイク
「ガシャ」スタンド立てる音がやけに大きく感じる。
目の前には蛍光灯のばけものが口を空け待っている。僕は走って
駆け寄るコンビニのレジ「おはようごさいますーーーー」
「ごくろうさん」「6部ここに置いときますよーー」「おっ!」

ボッボッボッボボボッ キィィーーーーブレーキ止まるバイク
「ガシャ」ダッダッダッ...はぁはぁはぁはあ...パタッ ダッダ
ダッダッ...はぁはぁはぁはぁ 「ガシャ」ボッボッボッボボボッ
僕はアパート・マンションの階段を駆け上がり息を切らしながら
バイクに跨り次のマンションに...茶色の洒落たマンション..
此処の403号室の通路側にあるサッシからはいつも決まって明かりが
漏れている。   −どんな人が住んでるんだろ−  そんな考えも
一瞬、頭をよぎるがすぐ忘れる。ダッダッダッ...はぁはぁはぁは
あ...パタッ ダッダッダッダッ...はぁはぁはぁはぁ
汗をTシャツで袖の部分で拭う。        そんな毎日。

20 :◆GNeSanpo26 :04/01/04 13:22
僕は昨日から 仕事を休んでいる。行けなかった...
今朝、僕が配るはずだった新聞に僕のことが書いてある。

「****市*****町地内****交差点で新聞配達の少年(17)..死亡
....同市内に住む********容疑者(31)飲酒運転及び...
.............................」

僕はこの交差点から動けないんだよ。
              交差点脇の花びら 車が通る度
                    ゆらゆらと揺れていた


21 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:37
                「予備タンク」

昭和17〜19年と日本軍は硫黄島を拠点にフィリピンを攻略、サイパン
グアムと戦線を拡大。さらに、ニューギニア、ガダルカナル島
物資、食料の輸送等、困難な事が予想される地域まで兵を進め
戦局は混迷を極めることとなった。

22 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:40
バシッ 鈍い肉を打つ音が空気を震わす。「貴様、上官に敬礼
もできないのか」 直径10cmもあろうかという木の棒に精神
注入と墨書きされた棒が力一杯尻に振り下ろされる。此処は海
軍の予科練である。俺は歯をくいしばり上官の叱責に耐えた。
げんこつ、びんた、これらは軍の中では当たり前のことである。
「はい、自分は敬礼を怠りました 申し訳ございませんでした」
「以後、気をつけるように」「はい、ありがとうございます」

23 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:41
日々、戦局が厳しくなる中、飛行機乗りとしての予科練の訓練
はそれはそれはきつかった。一日が終ると体がくたくたになる
唯一の楽しみといえば栄養食として食事の時に付く牛乳一本と
ゆでタマゴ一つである。15、16才といえば食べ盛りである。
すでに国内は 米、タバコなどは配給制になっており食料事情は
けして良い状況ではない中、親、兄弟姉妹のことを思うと
ゆでタマゴの塩が目に染みる思いで目頭が熱くなる時もあった。

24 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:42
一年弱という訓練期間を終え
祖国の為、日の丸の布を飛行服の袖に縫いつけ防塵メガネを
付ける。

25 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:44
いよいよ、俺も戦地に赴くこととなり、分隊長と共に機体を受領
する為、茨城県の訓練地から汽車で群馬県太田市にある中島飛行場
に向かった。広大な滑走路の隅の建屋に案内され機体を目の前に
する。 零式艦上戦闘機 

26 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:45
俺はこのまま単独で硫黄島まで飛ぶことになる。
硫黄島に着任命令が出ている為、分隊長とは此処で別れる。分隊長
に最敬礼をし操縦席の操舵棒を握る。

27 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:47
誘導路から滑走路までそろそろと機体を進めアクセルをゆっくり
開いていくプロペラが唸るように回転をしふわっと機体が陸を蹴る。
安定飛行に入るとともに車輪を格納する。硫黄島まで
孤独な飛行が続くと思うと ぶるぶると体が震えた。

28 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:49
機首を硫黄島に向け 日本の陸地を見納めとばかりに富士山
を目に焼きつける。
零戦の美しい翼に夕日が反射して眼下には霊峰富士が映える。
自然と左手が敬礼の形を取り、日本の上空と別れを告げる。

29 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:51
闇のなかを無事硫黄島滑走路に着陸する事が出来た。
飛行隊長に着任のあいさつをして泥のような体を横にする事
が出来た。この時点では南方の制空権は日本軍の手にあり基地は
まだまだ活気があったのである。

俺達は翌朝、ガダルカナル島に飛び立った。ガダルカナル島は米軍
により地上、制空権ともに完全に押さえられ日本陸軍の数万の将兵
は島に孤立する形となった。その為、潜水艦による島からの撤退作
戦が行われる事となり上空から援護の為、俺達は硫黄島から往復二千
キロ離れたガダルカナル島に出撃することとなった。

30 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:54
零戦は非常に飛行距離が長く優秀な機体であった。両主翼内の
タンク、尾翼のタンク、翼下にぶら下がる切り離し式予備タンク、こ
れらの燃料を効率良く使い往復、二千キロを飛ぶ事が出来る。しかし
パイロット達は連日の過酷な任務に集中力を失い、青い海に落ちて
いく者も少なくなかった。居眠り防止の為ヒロポンのアンプルに
頼ってしまう者もいる。
戦闘の日々が続いた。毎日、毎日 敵戦闘機との空中戦のなか今日
は一機、昨日は二機と櫛の歯が欠けるように食卓に空席が出来る。

31 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:56
哨戒飛行に出る。三機編隊を組み上空を偵察する。空に三角形を描く。
先頭で三角の頂点に位置する機が隊長機である。
隊長機の後ろ左右に援護する形で等速で飛行する。これでひとつの
分隊である。この形で空中戦に突入する。しかし、三機そろって帰れる
保障はない。その日、空から帰らない戦友をいつまでも滑走路で待って
いる整備士の後ろ姿を宿舎の窓から眺める事になる。
まるで、桜の花びらが散るように人の命が散っていく。これが、戦争である。

32 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 17:58
その頃、ガダルカナル島の地上では陸軍兵士は食べる物もなく、飢えに
苦しみ数万の将兵のうち生きて撤退できた人数は数千人である。のちに
この島の事を人々は餓島と呼ぶことになる。

33 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:00
昭和19年、硫黄島の戦況もいよいよ厳しくなり、俺が着任した頃は
保有数、百十数機を誇る飛行隊基地も格納庫には満足に飛べる機体6機
残すのみとなり、硫黄島 撤退命令が下った。俺は軍艦島の基地に
配属となった。

連日、哨戒飛行が続き。そうこうするうち、フィリピンの制空権を
奪回する作戦に参加する事となり基地全体が慌しくなった。

34 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:04
フィリピンに飛ぶ、その日の朝、俺はなんか やな予感がした。
そんな気分を振り切るように操舵棒を握る。ふわっと機体は浮かび
青い空に舞う。ぐんぐんスピードを増しフィリピン上空に達した。
眼下には川が蛇の様にうねっている。前方にキラッ と米粒くらい
の何かが光るように感じた。敵戦闘機である。俺は翼下に付いている
予備タンクを切り離すレバーを引いた。タンクが川めがけて落ちて
いく。友軍機もいっせいにタンクを落とした。タンクがあると翼が
重くなり旋回能力に影響が出る為、燃料があろうとなかろうと落とす。
さいわい、俺は予備タンクの燃料を使い切ったところだった。
さあ、戦闘開始である。
俺はぐんっと高度を上げる。相手に先に発見された方が負けである。
俺は敵機の後ろに回り込むように機を操る。まだ、相手に見つかっ
ていないようだ。5分後、空中戦の最中、俺は敵機に後ろを取られた。
逃げても逃げても、食らい付いてくる。敵の機銃がビシッ ビシッ
と機体に当たる音がする。右翼から白い煙が流れ始めた。赤い火も
見える。燃料計の針がぐんぐん落ちていく。機体の制御が....
「ああ 蒼い海と青い空がぐるぐるまわる...」
俺は青い空のような蒼い海に落ちていった。落ちていく俺の機影に
向かい友軍機の操舵窓から最敬礼する左手が
見えたような気がする...

35 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:06
その頃、サイパン、フィリピンと敵上陸により日本人の民間人、軍人
とも苦しい状況に陥っていた。サイパン島では敵の攻撃から逃れる為
海岸線に追い詰められる形となり、断崖絶壁の脇にある洞窟に身を隠
し闇夜に紛れ水を求め、昼間は息を殺す様に身を潜め洞窟入り口から
の火炎放射攻撃に耐えていた。戦争末期には、多数の民間人が目の前
にある断崖絶壁から海に身を投じた。生きて捕虜になるよりは死を選
んだ。後にその崖をバンザイ・クリフと呼ぶようになった。

フィリピンでも山下将軍率いる師団は苦戦を強いられていた。「おい
正平タバコあるか?」正平は雑のう袋からタバコを取り出し岡村に一
本渡した。「悪いな」正平と岡村は炊事当番の合間に隠れて一服する
つもりでいた。炊飯の水を確保する為、小川にいる。分隊の仲間からは
見つからないはずである。ふたりはタバコの先の火明かりが敵に見とがめ
られない様、手のひらで隠すように慎重に煙を口から吐く。
「正平、どうやら、師団はこれから山に逃げ込むようだぞ」 「俺達の
隊が最後尾のしんがりになるらしい」「そんな噂があるのか?」
「ああ、2〜3日後には噂が本当になるだんべ」「いよいよだな」
ふたりはそんな話をしながら水を汲んでいた。ふと、正平は視線を淀みに
移した。なにやら川面にぷかぷかと樽のようなものが浮かんでいる。
「おい!岡村ありゃなんだ」ふたりはその物体の傍に行き
「飛行機のタンクか」
「予備タンクだな」「おっ なんか文字が書いてあるぞ」「なになに」
金属プレートに刻印が打ってある。

「中島飛行機・零式艦上戦闘機********」「こんな南方の地で日本語
を見るとは思わなかったな」誰ともなく正平は呟いた。

36 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:08
平成15年 夏 サイパン

若い日本人の男女で賑わっている。
「おおぃ! ここで写真とろう」「すごい、断崖絶壁だね」
「ハィ チーズ」




日本の自衛隊が駐屯する島で特別の許可を持たないかぎり
民間人がその島に入る手段が無い島がひとつある。
島の夜が明ける頃、ガシャ ガシャ ガシャ 軍靴の音が響き
「捧げっーー筒」  旧日本軍の軍服を着た兵隊の隊列が
日本の方角に向かい敬礼をしているという.....

そう、その島の名は硫黄島である。

自然のいたずらか時間軸の歪みか自衛隊隊員達は、たまに
そのような光景に出会うと...
        静かに黙祷をささげるという...

37 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:11
昭和18年 秋
正平のところに一通の手紙が届いた。赤紙である。

駅のプラットホーム、「ばんざーい」「どうか、ご無事で」
「正平君の出陣にバンザーーーイ」私は、村の人々に見送られ
軍隊に入隊した。

ほどなく私のいる連隊が南方に出陣する事になり部隊は慌しい
雰囲気となった。

38 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:13
輸送船の中は兵隊でギュウギュウずめ状態で体を横たえることも
できない。まるで蚕棚のようである。
唯一の楽しみである食事も船酔いの為、喉を通らない。

日本を発ってから一ケ月以上こんな状態である。船内の空気が暑く
なり始めた。戦地フィリピンが近いのだろう。

「おい、正平」「向こうに着いたら、おもいっきり足を伸ばして
寝れるな」隣に座っている岡村が話しかけてきた。こいつは私と
同期で入隊してなにかとお互い助けあってきた仲である。

39 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:15
「ああ」「向こうに着いたら珍しい果物が食べたいなぁ〜」などと
退屈しのぎに相槌を打つ。「そうだな、マンゴーという果物がある
らしいぜ」

「それと、ヤシの木だな」「ヤシの木に成る実も食べられるらしい」
「日本といえば桜の木だが、向こうは桜のかわりにヤシの木だな」

40 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:17




41 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:18
平成15年 初夏
私は、地方の信用金庫に勤めるしがないサラリーマンである。ある夜
ふらっと入ったフィリピン・クラブにはまり、ここのところ連日連夜
通い詰めている。

私は、妻も子供もいる。仕事にも慣れ日々の生活に刺激もない。36歳
である。なにが、私をこの店に惹きつけるのか分からない。ただ、魂が
なにかを求めている、そんな感じである。

「イラッシヤイマセー」彼女達の屈託のない笑顔、明るさ。したたかさ
それと、ちょつぴり惹かれるセクシーな色気。これについては男なら
誰しも当然のことである。

42 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:20
昭和19年 晩秋
山下将軍率いる部隊は戦局の悪化に伴い、ルソン島山中に逃げ込む形
となり、私のいる小隊は本隊を無事逃がす為、長い隊列の最後尾にな
り、しんがりを務めることとなった。

「おい、正平」「今度という今度は覚悟しなきゃならねいな」「生き
て日本の土を踏む事はないだろうな」「せめて、最後に満開の桜を見
て逝きたいが、そんな贅沢は言っちゃいられんな」

パン..パンパン 乾いた銃声が山のなかに響いた。「熱い」左脇腹
軍服の赤い点がみるみるうちに大きく円を描きどす黒い血が流れ出て
くる。どうやら、敵の初弾に当たってしまったようである。

「しょうへい」体を低く地べたに這うようにして岡村が私の脇で薬を
取り出し傷口に手当てをしてくれる。「大丈夫」「傷は浅いぞ、正平」

「正平、此処から動くな」「かならず、戻る」と言い残し岡村は銃を
手に仲間の援護に行く。戦闘は約一時間ほどつづいた。

43 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:22
私たち小隊も本隊を追う為少しづつ移動を始めた。私は、岡村の肩に
つかまりなんとか歩くような格好でみなの後についていくのが精一杯
であった。

しかし、どうしても遅れがちであった。前方に一軒の民家が見える。
「少し、休んでいこう」喉が渇いていた。私達、ふたりは隊から離れ
るのを承知でその民家のドアをたたいた。

中からは二十歳位の女性がでてきた。彼女は私の軍服に付いている血
を見て取り敵の兵隊なのに家に入れてくれた。

「水を一杯ください」と右手でグラスを持つ仕草をしてみせ水を所望
した。彼女は水を取りに行く。

私は、床の上に横になり窓の外に目をやる。ほどなくして、素焼きの
器に入った水が運ばれてきた。右手で受け取り、一くち口に流し込む。

残りをいっきに飲み干す。「ああ、目がかすむ」「おい、岡村何処に
いる」どうやら、血の出すぎで目が見えなくなりつつあるらしい。
「正平、ここにいるぞ」 「桜がみてぇなあ〜」...
           ガタン...  素焼きの器が床に転がる。


     窓の外には一本のヤシの木が風に揺れていた。

44 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:24
平成15年 夏
「ねえ、課長」「課長が最近はまっているフィリピンのお店いって
みたいな」「おいおい、ああいう所は女性が行くとこじゃないぞ」
「だから、向学のために行ってみたいんじゃないですか」 彼女は
同じ課の受付をやっている子である。私がこの間、口がすべって
彼女にフィリピンのお店の事を話してしまったのがいけなかった。
俄然、彼女は興味を持ち、私に連れて行けと迫る。

「イラッシャイマセー」「キョウハ、トモダチイッショネ、メズラ
シイデスネ」 リサはそう言って牽制球を投げてくる。

彼女もここで私の腕にわざと自分の腕をからませて 「よろしく〜」
などと、のたまう。 うわ〜彼女を連れてくるのではなかった。
私は、この店に通うようになって、リサを指名するようになった。
リサに誤解されては困るので必死に弁解をする自分がいた。受付の
彼女はそんな私をおもしろがってからかう。

私の誠意?弁解?がリサに通じたのかテーブルでの会話も弾み楽しく
酔うことができた。受付の彼女もしたたかに酔っ払っている。

45 :◆GNeSanpo26 :04/01/05 18:26
「ねぇ、課長」「わたし〜〜は〜」「いろんなものが〜〜」「見えち
ゃって困っているんでーーーす。」   「おばけでも見えるんか」
「そうなんでーす」 「おばけじゃなくて、前世がみえちゃうんです」
私も社内での彼女の霊感についての噂を耳にしたことがある。

「ほー」「で、今はなにか見えるのかい」「課長の後ろには二十歳位の
フィリピン女性が立ってまぁ〜す」「リサさんの後ろには軍服を着た
日本の兵隊さんが立ってまあ〜〜す」どうも彼女は酔いすぎているらし
い。「おい、そろそろ帰るぞ」リサは気をきかせてグラスに水を一杯
持ってきた。リサが立っている後ろは壁になっていて、その壁には写真
が飾ってあった。


そう、写真にはフィリピンの蒼い空にヤシの木が一本風に揺れていた。



46 :名無し物書き@推敲中?:04/01/05 22:18
わたし配る!
わたし踊る!
わたし書く!

47 :◆GNeSanpo26 :04/01/06 05:36
日の本の
言の葉ありて
神となす
武器ともなりし
糧ともなりし

48 :◆GNeSanpo26 :04/01/07 05:54
              「ある日」

ハッ と目が覚めた。俺は手の甲で目の辺りをこすりながら
ぼやけた視界のなかで自分の部屋だと確認した。
しばらく、ベットの上でボーッとする。大きくあくびをしながら
「あ〜〜良く寝だぁ〜」平凡な日曜の朝である。

「えーっと リモコン リモコンと」「あった」 パチッ
テレビの電源が入った。俺は起きたらすぐテレビを付ける。
長年このような生活をしているので何も考えず体が自然と
動いてしまうのだ。「あれっ おかしいな」画面にはなにも
放送されておらず、ジーッーッーーと砂嵐が流れているのだ。
俺はベット脇にある目覚まし時計を確認した。9:14
「朝の九時だろ」ベットから立ち上がり窓際に向かい
カーテンを開ける。眩しいくらいの光が部屋の中に射す。
「やっぱり、朝だよな」他のチャンネルに変えてみたが
やはり同じように画面は砂嵐を流すばかりだ。
「うーん、テレビが壊れたか」

「しよがねぃな〜テレビでも買いに行くか」俺はてばやく
着替えをすませ「えーっとタバコは持ったし、忘れ物は
と..ないな」「おっとお金 サイフ サイフっと」

49 :◆GNeSanpo26 :04/01/07 05:57
俺はマンションの重いドアを閉めスーツのポケットから鍵
を取り出しロックをした。
見慣れた町をぷらぶらと駅の方向に歩いていく。「おかしい
おかしいぞ」町に人の気配がないのである。日曜の朝はみな
遅いのかもしれないと自分の考えを振り切るように強引に
納得した。5分歩き、10分歩き。「おかしい」俺は立ち
止まった。人がいないばかりか猫、犬 生き物がいる気配が
ない。俺は足早に駅前のデパートに向かった。走った。
「はっはっはっ」「ふーっ息が切れる」デパートの自動ドア
が開き俺は中に入った。フロアには電化製品が整然と置かれ
てはいるが、誰もいない。「どうなっているんだ」俺はテレ
ビを買うことなどすっかり忘れデパートを飛び出した。
町中を歩きまわった。しかし、誰ひとり見付けることは出来
なかった。俺は分けがわからなかった。携帯電話を片っ端から
打ちまくる。呼びだし音が響くばかり。

高級車、贅沢な生活、おいしい食べ物、なんでも手に入る。
ただ、それらを作ってくれる人がいないだけだ。
俺は自宅にも戻らずホテルに泊まり歩き一週間ほど
好き勝手なことをやった。夜の高速道路を左ハンドルで
ぶっ飛ばす。腕には高級時計は虚しく時を刻む。
サイフには一万円札がぎっしり、よく考えたらサイフ
なんかいらない。夜の高速道を走る車中から外へ投げ捨てる。

50 :◆GNeSanpo26 :04/01/07 05:59
ホテルのスイートルーム、薄暗い部屋にぽっんと独り
テーブルの上には空になったカップラーメンとグラスに注がれた
飲みかけのウィスキー
ふかふかのジュータンの上に無造作にツタヤのビデオが転がっている。
テレビの画面からは人の声が流れてくる。いつも見慣れているアイドル
の歌声である。
「人の声だ」頬にひとすじ熱い涙がつたうのが分かった。
俺はむさぼるように、いろいろなビデオを見た。

「自宅に戻ろう」 よろよろと立ち、ウィスキーのボトルを
口にふくみ、そのままボトルを壁に投げつけた。ガチャン!

51 :◆GNeSanpo26 :04/01/07 06:02
俺は自宅マンションのキーを取り出しノブに差込んだ。
「ガチャ」 ドアを開き中に入る。いつもの習慣でテレビ
のリモコンを手に取り電源を入れる。テレビに何か
映しだされているではないか。
俺は画面の前に座り直して耳を澄ませた。聞き覚えのある
しゃべり方である。テレビから流れる声はなんと自分の声だ。
機械から出る自分の声に違和感があるがまさしく俺の姿と声である。

画面には小学校にあがる前の俺がいる。まるでホームビデオで
撮っているような画像である。俺は真剣に画面を見詰めた。
小学生から中学、高校、大学、いまに至るまでそのホーム
ビデオは俺の人生を映し出している。繰り返し、繰り返し

いままでの恥ずかしい事、悔しいかった事、後悔してる事
二度と思い出したくない事。俺がした数々の悪事。すべて...
俺はテレビの電源を切ったが、画面は消えない。繰り返し
繰り返しビデオは流れつづけている...

俺の人生の最後が画面に流れる。俺は死んでいるのか?

52 :◆GNeSanpo26 :04/01/07 06:05
伏魔殿庁 刑務課 コンピュータールーム

青鬼は右手にコンセントを持ち仁王立ちで赤鬼に向かい言った。
「おい、赤鬼 おまえ また昨日の夜、酔っ払ってコードに足を
引っ掛けたやろ」 「おお、すまん すまん」 「あのな
囚人111号の人生投影機が写らんぞ」青鬼はコンセントを
電源に差し込んだ。「よっしゃ、これでよし」「孤独ちゅう刑やな」


そう、俺は死んで煉獄という刑務所に収監されたのである。



53 :◆GNeSanpo26 :04/01/08 05:55
                  「落書き」

所持金は一万円を切った僕は駅のキヨスクでスポーツ新聞を買い
求人欄をひとつひとつ丹念に見つめる。期間従業員募集 寮、3食付き 
目に飛び込んできた会社に電話をした。「もしもし、新聞の求人欄を
みた者ですが募集はまだやってますか」「はい、募集してますよ面接希望
でしたら明日10時に来られますか」「だ..大丈夫です10時ですね」
「失礼ですがお名前とお歳を.......」「....と申します
20才です」
翌日、僕は指定されたビルの二階にいた。「では、6ヶ月期間のアルバイト
入寮希望.....と」面接をしてくれた人は事務的に話を進める。
「えーっと食事はですね寮の食堂で決められた時間内にと詳しい事はこの
書類にありますので....」


深夜の工場 人声は聞こえず、機械の発する定期的なエアーを吸い込む
音がシューシューヒュ ゴムの吸盤にVHSのビデオテープが吸いつけ
られ製造ラインを流れていく。白いプラスティックケースに入れられ3数
本で一組にフイルムを巻かれダンボールの箱に収められていく。すべて
の行程はオートメイション化されて人間の手は入る必要がない。
僕はベルトコンベアーの上を流れる黒いビデオテープをただひたすらと
眺めて傷のチェックをする。椅子に座り正面にベルトコンベアー僕の体
右側に60cm×60cmの木製机があり不良品をはじく度、机の上にテープが
置かれる。ベルトコンベアーのラインは20m、各ポイントごとに机が置か
れ椅子に人が座っている。みな行程ごとに違う部位のチェックをしている。
フィルムの印刷づれ、ケースの糊のはみ出しなど、5箇所のチェツクポイント
に別れている。一日12時間夜の8時から朝の8時までさすがにひとつ所に座っ
ていると飽きてくる。会社もその辺は考慮して5つのポイントを一日交代で
ローティションする取り決めがあった。

54 :◆GNeSanpo26 :04/01/08 06:05
はじめてそれに気付いたのは僕がこの会社に入社してから一週間ほどして
からだろうか。
机の右下 隅のほうに小さく釘のようなもので落書きが彫ってあった。
"ひとあれどひとごみの中に人はなし"僕はそれを読んだ時、絶望の匂いを
感じた。これを書いた人はひとに絶望し人生に一度絶望したのかもしれない。

それから1ヶ月ほど経ち仕事には慣れたが職場の人間関係に馴染めずに
いた。そんなある日、いつものように寮の敷地内に送迎用マイクロバス
が停まっていた。夕刻の7時に工員達を乗せ出発するのだ。20人乗りの
マイクロバスの席順はこれといって決まっておらず後ろの席から埋まっ
ていく。その日、僕は寝坊をしてしまい出発時刻より5分ほど遅れ待たせて
しまった。運転席のすぐ斜め後ろが空いており「すいません遅くなりまして」
と謝り席についた。運転手は気のいい人で白髪まじりの頭を僕に向け「気に
するな」運転手は車内の空気を察してか明るい声で「あんちゃんサンヤって
知ってるか」「サンヤですか..知りません」近くに座ってるひょうきんな
藤崎さんが「東京の山谷 あんちゃん知らん」「この運転手のおちゃんは
山谷から逃げて栃木にきたんだよ」「わははは、そういうお前だって
山谷からここに来たんだろが」「山谷のどや街ってのがあってな詳しい事は
藤崎のおっちゃんが教えてくれるよ」「山谷ってのは人生に疲れた者が
吹き溜まる所だよ」「まあ、あんちゃんにはまだ分からんだろうがこの会社は
そういう人間の集まりってことだ」運転手は少し厳しい口調で「だが、出発
時間には遅れるな寝坊は誰にもある」僕は藤崎さんの横顔に 落書き を発見
した時の匂いを感じた。

55 :◆GNeSanpo26 :04/01/09 06:02
それから数日後、職場に新しい人が入って来た。彼を最初見た時、挙動不振な
動きをする人だと思った。何かに怯えているようだ。彼はきょろきょろと周り
を確認する癖がある。僕は彼の動作に興味を持ちベルトコンベアーを見るふり
しながらそれとなく彼を見ていた。工場から出荷する為、ホークリフトの爪が
入る畳2つ分くらいの平たいプラッスチックの板に6段×10箱で製品のダンボー
ル箱を積み上げる作業を彼は教わっている所だった。外へ出られる鉄製の重い
非常用ドアがバタンと開いた「うーっ出荷伝票ここ置いとくよ」ホークリフト
の運転手がそう言いながら入ってきた時、彼はドアの開閉する音に反応してい
た。彼に仕事を教えている班長の顔に苛立ちの表情が浮かんだ。

その頃、僕はお酒を外に飲みにいく事を覚えた。寮から歩いて片道15分くらい
の所にコンビニがあり散歩がてら行くのが僕の密かな楽しみだった。初めての
土地見知らぬ街並みを探検するような気持ちで歩けた。時間の余裕がある時な
どは脇道に入って新たな発見をした気分になったりしていた。漫画を買う、飲
み物を買うという事は僕のなかでおまけみたいなものになっていた。
そんな、密かな散歩道の途中に一軒の気になるスナックがあった。交差点の角
二階立ての古いトタン張りのもとは民家だったような建物を改造した感じの店
が5軒並んで十字路の一角を彩っている。角からスナック、やきとり屋、パブ、
居酒屋、おこのみ焼き屋といった感じで並んでいた。僕が気になる店というの
は一番角にあるリンクスという店だった。外観は木を使い山小屋風、昼間営業
していれば喫茶店としても違和感がないほど地味な造りだった。
休日の夜、僕は意を決してその店にひとりで行った。

56 :◆GNeSanpo26 :04/01/09 06:04
店内は狭く入り口から左側全体が木製のカウンターになっており5〜6人座ると
いっぱいという感じだ。
カウンターの内側に洗い物シンク、ガス台、家庭用冷蔵庫、ボトル棚が見える。
僕はカウンターの中央を避けて端から2番目の席に座った。「いらっしゃいませ」
おしぼりを僕に渡してくれる。「なに飲みますか」「えっとビッビールください」
僕が緊張している事を察したのかもしれない笑顔でこくりと頷いてくれた。
たしかに緊張していた。というのも店のママが僕と同い年くらいなのである。
初めて入る店、頭のなかの想像とのギャップに少し戸惑いを感じていた。むしろ
嬉しい戸惑いだった。
店内には僕とママふたりきりで僕の頭の中はカウンターの内側にいるこの人が
この店のオーナーでママなのか?店内をひととおり見回す。普段はあまり使わ
れていないだろうと思われる小さなボックス席が2つあるだけでやはり僕とママ
ふたりしか店内にはいない。「はい、どうぞ」と瓶ビールをグラスに注いでくれ
ママの明るい声に押されるように僕はグラスのビールを一気に干した。
「ひとりでこのお店を切り盛りしているんですか」「うーんそう私ひとりでまだ、この
店始めて間もないのよ ちょうど一年くらいかな」

57 :◆GNeSanpo26 :04/01/10 05:58
栃木弁独特のイントネーションで若いママは僕に質問した。「この近くに住ん
でるん」「ええ、ここからお店の前の十字路を右に歩いて10分くらいのとこに
踏み切りあるでしょう。そこを右に線路沿いの細い道を300mくらいいった所に
二階立ての寮みたいな造りの建物知ってます」ママは空になったグラスにビー
ルを注ぎながら「うんうん知ってる寮に住んでんの」「あの建物 昔は病院の
看護婦さんの寮だったんよ」「あっそうだったんですか」「わたしはこの街で
生まれてこの街で育ってるからねこの辺の事だったら大概知ってるよ」ここで
会話が途切れ、僕の頭の中の小人が ここでなにか気の利いた話題を...と
囁く 思い浮かばないええっとなにか話題話題っと 僕の頭の中はぐるぐると回
っていた。ひとりでこういう店に飲みに来るという事自体、僕にとって初めて
の経験なので自分でも背伸びしているなっていうのが分かっている。「なにか
食べる」ぎこちない間を埋めるかのように笑顔でメニュー表を渡された。僕は
グラスのビールをぐいっと煽り「じゃあ、ヤキトリください」「焼き鳥ねっと
少し時間かかるけどいいかな」「ええ、いいですよ、それとビールの次ウイス
キーもらおうかな」「ボトルキープとワングラスとがあるけど、どっちにする」
「じゃあ、グラスで」ママは冷蔵庫の冷凍室を開けコンビニで売っている氷を
取り出した。「わたしも飲んじゃおうかなっと」そう言ってウィスキーの入っ
たグラスを二つ作った。僕にグラスを手渡しながら「わたしと同い年くらいか
なぁ」「僕は今年二十歳になったばっかりです」「じゃぁわたしの三つ下だね」
「わたしは短大出てすぐ東京出たんよ。OLを一年ちょいやって地元に逃げ帰っ
てきたってわけ、そいで今このお店をね」ママはそこで寂しそうに笑いながらも
話を続けた。「わたしの親がね、やっぱり水商売やってるからねその関係でね
たまたま、この物件が空きになったんで遊んでてもしょうがないだろうという事
でやり始めたわけ」僕は頷きながらその話を聞いて「なんか納得した、ママの
雰囲気と水商売がどうもピタッとこなかったんで」「なんか、わたしが水商売が
ヘタみたいに言いますね〜」悪戯ぽく笑う仕草を見て僕もつい笑ってしまった。

58 :◆GNeSanpo26 :04/01/10 06:01
それから、一時間ほど飲み喋り「さて、そろそろ帰ります」と僕は席を立ち
「じゃ会計お願いします」「3500円ね」僕は正直こんなに安くて商売なるのかな
と思った。「はい、おつり」500円玉とライターを渡され「これね去年の正月に
作ったライターの余ったやつ」「また寄ってね」「どうもごちそうさまでした
また、来ます」僕は帰り道、そのライターを手に取り眺めながら、もったいな
くって使えない大事にとって置こうと思った。

59 :◆GNeSanpo26 :04/01/11 06:04
とそんな事をボーッと考えながらコンベアー上を流れるカセットテープを見つ
めると同時にあの挙動不振な動きをする彼の動きにも気を配っていた。彼は一
週間、もたずに此処を去っていくだろうと思った。僕も1ヶ月以上ここで働いて
きて残る人とやめていく人がなんとなくだが分かる。それほど、この会社は人の
出入りが激しいのだ。入ってきてはすぐ辞めていく。人材派遣会社、ここに集ま
ってくる様々な人々は生きる為の金を稼ぎに来ている。冬、雪の降る地方からの
出稼ぎで来ている人もごく少数だがいる。みんな生きる事に真面目だ。そして不
器用だ。キンコンカンコン休憩時間を知らせる音がスピーカーから流れ「おっー
休憩だー」という声でみな一斉にガヤガヤと喫煙室に向かう。
ギャンブル好きな遠藤さんが「うー眠みーパチンコなんかやるんじゃなかったい」
すかさず、加藤さんが「寝ずにパチンコかここで稼いでパチンコ屋に貯金しても
利子が付いて返ってこねどー」わははは喫煙室に笑いが起こる。みんな、バカ話
しかしない。僕は隅の方でタバコを吸っていたら「火ぃー貸してくれる」なんと
挙動不振の彼から僕に声を掛けてきた。僕は無言でライターを渡した。彼は「あ
りがとね」と言いライターを僕に返した。黒ふちメガネに厚いレンズの奥の目を
細めうまそうに煙を吐いた。細長の顔からはさきほどの挙動不振さは消えていた。
僕は彼の年齢を推測してみる四十代後半もくはそれよりも、ぐっと若いかもしれ
ない。この会社にいる連中は顔と実年齢が一致しない事が多い事も経験から学ん
だ。僕はそのうち年齢なども分かるだろうと思いあえて聞かない。ここの連中は
自分の過去のことはあまりしゃべろうとしないから。そういう僕も...

それからというもの一日三回の休憩時、タバコを吸っていると彼が傍に寄ってく
るか僕が彼の傍に行くかで話をする機会が多くなった。

60 :◆GNeSanpo26 :04/01/12 06:04
僕たちは一日の大半の時間を会社に売り終え、工場内敷地に待機しているマイ
クロバスへと流れるように乗り込む。まるで僕達がカセットテープでバスがダンボー
ル箱に感じられる時がある。「みんないるなー乗ったなー」その声を合図にバス
は朝の田園風景の一部になる。

61 :◆GNeSanpo26 :04/01/13 06:02
四十分ほどシートの揺れに身をまかせ。バスは留まる。ぞろぞろとダンボール箱
から降りそのまま、食堂で食事を取る者、風呂に入ってから食事する者、自分の
部屋に直行する者、おのおのが開放された悦びを表現する。僕は部屋に戻りジャ
ージの上下に着替えお風呂セット、シャンプーやらタオルやらを持ち浴場に向か
う。食堂内を抜け細い通路の奥に脱衣所がある。板張り空間に木製の茶色に塗
られた脱衣棚が白いクロス壁に造り付けされており天井には大きな扇風機がゆっ
くり回転している。風呂場と脱衣所との仕切りのサッシをガラガラッと開けると
正面の大きいガラス窓から朝の陽が差し込み大量の白い湯気とが空間を埋め尽く
している。右側にたたみ六畳くらいのホーローの浴槽があり浴槽の二辺を囲むよ
うに洗い場になっている。タイルの壁からお湯と水の出る混合栓、シャワーが各
八つある。

62 :◆GNeSanpo26 :04/01/14 06:01
僕はまず洗い場の椅子に腰掛け身体を洗ってから湯船につかる。濡れたタオルを
頭の上に乗せ目を閉じ少しのあいだ湯を楽しむ。集団生活ゆえ風呂ひとつとって
も自分勝手な振る舞いは出来ない、窮屈な枠のなかに自分の居場所を常に意識す
る。僕は湯船から出てもう一度、洗い場で身体の垢を擦る。いままでは汗を流し
不潔にならなければよいとカラスの行水ではないがそれに近かったのだが、あの
夜ママの店に行ってからシャンプーもリンスもをきちんとするし垢すりだって二
度もする。僕のなかでなにかが変わった。
僕は脱衣所でジャージを着込みそのまま食堂に行く。すでに食べ終えている者も
いて返却トレーがいくつもステンレスの台に置いてある。僕はおかずの載ったト
レーを持ち小窓から厨房のおばちゃんに「ごはんと味噌汁お願いします」と声を
かける。「はいよ、大盛りかい」「いえ、普通で」湯気のたつ味噌汁とごはんを
受け取り、会議室などにある細長のテーブールの上にトレーを置く。丸イスに腰
を下し、さばの味噌煮から箸を付ける。マカロニサラダ、肉じゃがの小鉢どれも
味付けはよく、また、量も申し分ない。僕はテーブルの一番端で黙々と箸を上下
する。同じテーブルには4〜5人いるが、みな椅子ひとつ分もしくはふたつ分空け
自分の空間を確保し黙々と食べる。

63 :◆GNeSanpo26 :04/01/15 06:00
食べながら考えていた。明日から三連休、いや、今の時点からだ。自由な時間を
有意義に使いたい。
トレーをステンレス台の上に置き「ごちそうさま」と食堂を出て乱雑に靴が脱ぎ
捨ててある玄関脇の階段をのぼる。長い真っ直ぐな廊下が中央に走り両側に安っ
ぽい白の化粧ベニヤの張られたドアがいくつも並ぶ。その中の203号室が僕の部屋
である。6畳一間に14型カラーテレビ、カラーボックス、CDラジカセ、敷きっぱな
しのふとん。二月なのに部屋のなかには火の気ひとつない。「そろそろ、こたつ
でも買おうか うーさみぃ」ふとんの中に頭までもぐり込み丸くなり温まるのを
じっと待つ。とそこへ トントン ドアを叩く音がする。「どうぞー開いてます
よー」ふとんから上半身だけ起こし声をかける。僕はこれから出かけるつもりだ
ったので鍵は掛けていなかった。ドアの外に立っていたのは彼だった。黒ふちメ
ガネの奥にある目をしばしばと自信なげに瞬いていた。彼は入ってくる素振りは
なく廊下に佇むのみであり、「どうぞ、中に入ってください」CDラジカセの空箱
をテーブルにみたて腰掛けるよう促した。「寝てた 悪いね」「いえいえ、ふと
んの中で少し休んでから駅ビルでこたつでも買おうかなと思ってたんですよ」僕
はタバコに火を付け、それから、セブンスターの箱に100円ライターを載せダンボ
ールのテーブルを滑らせた。「どうぞ」「すまんね」僕たちは無言でタバコを一
本吸い終えた。おもむろに彼が口を開いた。「悪いけん、3000円貸してもらえんか」
「実はな埼玉県、春日部という所に仲間っ..ぃや友達がおるけん連休を利用し
て金の工面をしょうと思うちょる」彼は普段、標準語で喋るが今は九州地方らしき
方言でしゃべった。

64 :◆GNeSanpo26 :04/01/17 06:05
僕もこの会社で働きはじめて最初の給料をもらうまで手持ちの残金が目に見えて
減っていく恐怖感を知っている。茶色の二つ折になる皮製のサイフを開き黙って
千円札を三枚抜き取り彼に渡した。この金は返ってこなくてもいいと思った。
「かならず、返すけん」と彼は立ち上がる。僕は半分ほど残っているセブンスター
の箱を彼に押し付けた。戸惑う彼に「まだ、封の切ってないタバコあるから」僕
は言いながら四角い箱を手とり彼に見せた。彼は安心したように頷きセブンスター
をポケットに仕舞った。

65 :◆GNeSanpo26 :04/01/17 06:07
その夜、はやる気持ちを抑え、ひとりいつもの散歩道を歩く。真冬の北風が寒く
感じないほど僕はママに逢いたかった。カランコン低く重い鈴の音が木製のドア
を引くと同時に鳴り、カウンターのなかで顔をあげるママの表情にぱっと火が灯
るように店の中が明るくなったように感じられた。気のせいかもしれないが僕は
確かにそう感じた。外の冷気を厚めのジャンバーに纏い僕はこの前と同じ席に座
る。「寒いすね」わざと崩した口調でしゃべった。「なに飲みますか」ママはわ
ざと丁重に答えた。そんな、ふたりきりのその場でしか作れない雰囲気。お互い
の言葉に刺激されるように会話が滑り出す。「ウィスキーをグラスで..オンザ
ロックで頂けますか」「はい、かしこまりました少々お待ちください」ふたりは
吹き出しそうな顔で演じる。ひとっきりそんな遊びをして僕は真顔で質問した。
「ところで僕が入ってきた時、カウンターの上にあるグラスを見詰めていたけど」
今も僕の目の前にはその水のはいったグラスが置かれている。「あ、これの事」
ママはグラスを両手の指で包む様にし「小さい泡があるでしょう、見える、ねぇ」
暖房で暖められた店内、グラスに気泡がついてもおかしくはない。「店の前に交差
点あるでしょ よく事故があるんよ こうやってね、水を置いておくと目に見える
早さで減っていくんよ不思議だね」なんか、僕はどう答えていいか分からなかった。
ママは雰囲気を変えるかのごとく「わたしも飲んじゃおうかなっと」いつものママ
に戻った。「チーズ食べる ねぇ」僕はチーズはあまり好きではないが「うん」
と頷いた。白い皿に盛られたブルーチーズが出てきた。僕が手を付けずにいると
「嫌い、男の人はブルーチーズはダメってひといるよねっと」と言いながら皿に
手を伸ばし、ぽぃと口の中に放り込んだ。僕はそのくちびるに見とれてしまった。
「なぁ〜に見てるかな〜 スケベ」僕はノックアウトされた。ふらふらだ。

66 :◆GNeSanpo26 :04/01/17 06:09
「さて、そろそろ帰ります」「もう帰んの」「ええ、また明日来ます」僕は店の
隅に飾ってある額に入った 食品衛生管理の免許証に記載された名前に気づいて
しまった。名前欄には、吉岡露紀 とある。ドキドキした。もっと、あなたの事
が知りたい心の中で思った。帰り際、例の水が入ったグラスに目をやると半分位
減っていた。

67 :◆GNeSanpo26 :04/01/19 06:01
次の日、連休、なか日とあってかなかなか敷きっぱなしの煎餅ふとんから出られ
ずうだうだとテレビから流れる画像を見るとはなしに眺めていた。いいかげん首
が疲れてきたので起きたいのだが、これからなにをするか?今日の予定は決まっ
てない。頭の中でおもいを巡らす。ふとんから出て着替える時の肌に刺さる寒さ
に勝る魅力あるだけのものがなければ、ふとんから出られない自分がいる。枕元
に置いてある腕時計を手に取り短針の位置を確認する。「三時かぁ」たしか駅南
口のロータリーから細い脇道に入った所に間口二間くらいの小さな古本屋があっ
たなと記憶の糸を手繰る。これでようやくふとんから出られるものが見つかった。

68 :◆GNeSanpo26 :04/01/19 06:04
錆びいろの枕木の下に石が敷き詰められ鈍い銀色のレールが二本走る空間を左手
に眺めながらねずみ色のアスファルトを歩いていると空から白いものがひらひら
舞いはじめた。僕は手のひらでそれを受ける一瞬で消える。残る冷たい感覚をぎ
ゅつと握りジャンバーのポケットに仕舞い込む。ふと、頭のなかに雪見酒と言う
ことばが浮かんだ。僕の殺風景な部屋の窓から降りしきる白い雪を僕はこたつに
入りながらあきもせず眺めている。月の光に照らされた音のない白い世界。とそ
んな幻想的な風景を思い浮かべながら、ぶらぶらと駅の方角に向かい歩を進めた。
黄色と黒が互い違いに塗られた竹の棒が見える。この踏み切りは鉄道という静脈
と地方道という末端血管の交差点。僕が今立っている踏み切りは駅のプラットホ
ームからわずかに右にカーブを描きながら東京方面にむかって二つ目に位置して
いる。ここから駅ビルがよく見える。この踏み切りを左に行けばママの店がある。
真っ直ぐ線路沿いに歩けば駅北口にわずか5〜6分で着いてしまう。僕は迷った。
よし、このまま真っ直ぐ北口に出て駅構内を突っ切り南口に出ようと決めた。
細い路地の右側には風俗店が何軒かありそのなかの一軒のキャバクラのドアが開
けぱなしになっていた店内は暗く天井に付いているミラーボールが寂しげにドア
の内側から外の風景を眺めている様に感じた。店の前には青色のドラム缶のよう
な形のゴミ箱が水洗いされたまま置いてあった。そんな風俗店がある細い路地も
100mも歩けばいきなり視界が開け駅ロータリーと直結してしまう。自転車置き場
バスの停留場、タクシー乗り場と人々が冬の風に乗り舞う雪に抵抗するかのよう
に上着の襟を手で押さえ足早に歩いている。

69 :◆GNeSanpo26 :04/01/19 06:08
新幹線もとまる堂々とした白い駅舎その腹の中を通り抜け南口へと躍り出る。う
っすらと白化粧したアスファルトに足を取られないよう慎重に古本屋がある路地
に入る。しばらく歩くと右側に見えてきた。入り口の上に取り付けてある、みど
り色の巻き上げ式の軒先そのビニール地に黒文字でみどり書店とある。僕は入り
口で一旦止まり、ジャンバーの肩口に付いている雪を払い落としてから、ガラガ
ラとアルミサッシの引き戸を滑らせ店のなかに入る

70 :◆GNeSanpo26 :04/01/20 06:06
棚を上から下へ順に目で追っていくタイトルに惹かれ手を伸ばしパラパラと最初
の数ページに目を通し元あった所に戻すという事を数回繰り返す。今度は以前読
んだ事のある作家で棚を追っていく、すると旅行記や小説、映画などを御自分で
撮ったりしている作家のエッセイ集が上、中、下巻と三冊一組で棚の隅にあった。
僕は古本屋でほしい本に巡り合ったりすると宝物でも発見したような気持ちにな
る。古本屋の棚を一時間眺めた末なにも買わず店を出るなんていう事も多々ある。
今日は宝を発見してしまった。僕はすぐさまその三冊をレジに持っていく、レジと
いうか、とにかくレジの機械が置いてある場所。店舗兼住まいらしくガラス戸の奥は
生活の場という感じの造りで畳じきの一段高くなっている所に座布団を敷いてストー
ブにあたっている品の良いおばあちゃんがいる。「すいません、これお願いします」と
声を掛け千円札で支払いを済ます。
「今日は寒いねぇ本格的に降りそうだねぇ」「そうですね」と僕は答えた。「学生さんかぃ」
「いえ」「そうかぃそうかぃ風邪引かんようにねぇ気ぃつけて帰るようにねぇ」とそのおばあ
ちゃんは人の好さそうな笑顔で何度も何度も頷きながら僕に話しかけた。「ええ、おばあ
ちゃんも風邪引かないように、じゃあ僕はこれで」と言い店を出た。帰り道、酒屋に寄り
ホワイトホースという銘柄のウイスキーを購入し抱きかかえるように背を丸め襟から解け
た雪の雫が入る度、肩をすぼめ部屋に逃げるよう戻った。

その夜、少し赤い顔をしてママの店に行った。

71 :◆GNeSanpo26 :04/01/21 06:00
職場の人間関係のなかに孤独を感じる。部屋のなかにいても孤独を感じる。ただ
それだけだ、それだけの理由で酒を飲む。ウイスキーを喉に流し込むギュッと熱
い感覚が食道を抜け胃が暖かくなる。そんなの求めて僕は外にお酒を飲みに行く
んじゃない。人のあたたかさを飲みに行くだけ。そんだけだ。僕はふとんの中で
眠りに堕ちていった。

連休、最終日の午後トントンと僕の部屋をノックする音で目覚めた。「はい」と
寝ぼけ声で答えると「今、戻ったけん」彼の声である。「あっちょと待ってくだ
さい今開けます」僕は目を擦りながらドアを開けた。「これ、この間借りた三千
円」彼は律儀にも返しに来たのだ。「あぁっ、別にいつでもよかったんですよ」
まさか帰ってくるとは思わなかった。「友達から金の工面が出来たけん、お礼が
したいじゃけん今晩付き合うちょくれんか」「もちろん、わしがおごるけん」
「いえいえ、そんなんいいですよお礼なんて」意固地に断るのも悪いので「じゃ
一軒目はおごってもらって二軒目から割り勘でっというふうにしましょうか」僕
は外でお酒を飲む事を覚えたばかりなのでもっといろんな店に行ってみたいとい
う気持ちがあった。この風変わりな彼といっしょにお酒を飲んでみたいという好
奇心も同時に沸いてきた。「今、四時やけん、そしたら、七時にドア叩くけん」
「ええ、じゃあ七時ですね、分かりました」彼は自分の部屋に戻って行った。

72 :◆GNeSanpo26 :04/01/22 06:08
彼は七時ちょうどに迎えに来た。「行こか」「ええ」僕は彼の後について寮の階
段をおりる。玄関でくつに履き替え「どっか知ってる店あればよかね」「う〜ん
そぅですねあまり僕は外に飲みに行かないんで知ってる店って無いんですよ」なぜ
かママの店に彼を連れて行きたくなかった。無意識にママの店を避けようとする
自分がいた。「居酒屋なんかどうですかね」とことさら明るい声で僕は言った。
僕達は踏み切りのところまで話ながら来た。僕はママの店と反対方向にあるビル
の二階を指差し「あそこに見える居酒屋にしますか」彼は頷き「居酒屋で焼き鳥
もええね」僕達はその大手チェーン店の居酒屋に入った。一番小さいテーブルに
案内されメニューを渡され「お飲み物はどういたしましょう」どうやら、飲み物
を先に注文するらしい。僕達はとりあえず瓶ビールを注文した。僕はタバコに火
を付け「昨日の雪、結構降りましたね」「そうやね、道端にまだ残ってるけんね」
僕はファミリーレストランのようなメニューを開きながら、時折、目線を下の料
理に向けながら話をしていた。店員さんがビールをテーブルに運んできたついで
に、つまみを五〜六品注文する。僕達は酒が進むにつれ口が滑らかになり楽しく
酔う事が出来た。「よし、次行こうか」彼は言い会計を済ませる。今日の彼は余
程良い事があったのか上機嫌のようだった。

73 :◆GNeSanpo26 :04/01/22 06:10
ふたりは居酒屋を出た。酔いで火照った首筋に残雪の上を渡る風が冷たく感じた。
次に行く店を決めずにぶらぶらと歩く。もっとも店を知らないのだから決めよう
がない。「今日はなんか機嫌が良いみたいですね」「うん、久しぶりに仲間と会
うたけんね」「そんな事より次の店どげんするとぉ」「そうですね、行き当たり
ばったりでその辺の店にでも入りましょう」僕達は適当な店に入った。
入り口の看板にショットバーとかなんとか書いてあった。地下に続く階段を降り
ながら僕の頭に一瞬、僕達にはちょっと場違いな店かも...という考えも浮か
んだがそこは酔いの勢いにまかせてドアを押した。店内は静かなクラッシック音
楽が流れていた。年の頃、四十代半ば位の女性がカウンターの中にいた。他に客
はない。僕達はカウンターに座り温かいおしぼりを受け取る。僕はちょっと緊張
した。こういう店は初めてだった。

74 :◆GNeSanpo26 :04/01/22 06:12
なにを注文していいか分からずに注文を躊躇っていたらカウンターの内側にいる
女性が、おすすめのカクテルの名前を言った。僕達はそのなんたらかんたらと言
うカクテルを頼んだ。僕の頭がカクテルの名前を覚えられないので「はい、それ
ください」となってしまったのだ。もうなんでもよいアルコールならばそんな心
境だった。次々といろんなカクテルを飲んだ。
グラスの縁に塩が付いてるやつ、ピンクのやつ、ハワイなんとかと言うやつ。僕
達はかなり酔っ払っていた。この店に来てどれくらい時間がたったのだろうか、
僕達は上機嫌でしょべっていたが唐突に彼は質問してきた。「君は学生運動ちゅん
知っちょるか」「学生運動ですか、う〜ん僕らはテレビのなかでしか知らないです
ね安田講堂事件とかですか」「うんうん、知っちょるかその頃、わしは大学生やっ
たんよ」僕は内心びっくりしていた。彼は大学出だったのだ。それから、彼は学生
運動に情熱を注ぎ傾斜していったと話した。僕はそういう思想も知識もないので
いい加減な所で彼の話を打ち切るように「僕はそういう事は全然分からないし
まったくテレビの中での出来事としか感じられないしな〜」「君の年代だとそうか
もしれんね」彼もそこでその話題を止めた。それから暫くカウンターの内側にいる
女性もまじえて三人でバカ話をしたりして時間を過ごした。「酔うたけん、そろそ
ろ帰るか」「いくらか」僕は割り勘のつもりでいるのでポケットからサイフを出す。
「いい、いいけん、わしのおごり」と彼は聞かない。彼は僕を片手で制止して自分
の黒い札入れから一万円札を三枚取り出す。僕は偶然、彼のサイフの中身を見てし
まった。一万円札が十枚一束で三つに区切り札入れに収まっていた。区切りの一万
円札は横に二つ折りにして帯の様になっていたのが印象的だった。なんで、こんな
大金持っているのだろうと不思議に感じた。結局、その日は彼におごってもらう
形になり、次回は僕がおごるという約束をして部屋に帰った。

75 :◆GNeSanpo26 :04/01/22 06:15
彼といっしょにお酒を飲みに行った夜から三日後、彼は仕事を休んだ。僕は寮に
帰るまで彼が休んだ理由が分からなかった。その日、いつものように風呂を済ま
せ食堂でごはんを食べていると噂話が聞こえてきた。「昨日、警察が来たらしい」
「どこに」「この寮に決まってるべ」「ほれ、あの黒ぶちメガネ..うーんっと
なんていったけ...」「おうおう奴か、何かやったんか」「奴さん指名手配中
だったらしいな、なんでも赤軍だか成田だかそんな関係らしいぞ...それでな..」
僕は箸を置き食堂を出て部屋に戻った。僕は買ったばかりのこたつの中で彼が言
った言葉の断片を思い出してみた。僕は食堂で耳にした話は本当の事だろうと思
った。僕は彼の過去は知らない。また、知り合って日も浅い。しかし、これだけ
は分かる。彼は自分の一生を賭けるものを持っていた。
善い悪いは別にして彼の生きる姿勢その真摯さ。僕は忘れる事が出来ない。

そんな事があっても僕の寮生活はなにも変わらずに相変わらずママの店に足繁く
通っていた。

76 :◆GNeSanpo26 :04/01/24 07:27
鉛色した空の下を北風が無機質なアスフアルトを撫でて行く。僕はそんな容赦な
い風に背を押される様に道端を歩いていた。この辺りは道幅が狭いくせに車の通
りが激しい。みな大通りに抜ける為の近道として車も人も先を急ぐ。時刻は夕方
の四時、買い物の帰りだろうかスパーの白いビニール袋を両手にさげているおば
ちゃん、ベージュ色のコートの襟に手をあてて寒そうに歩くセールスマン。僕の
足は無意識の内にママの店の前にある交差点へと向いている。最近はこの交差点
が地球の中心点かのように此処を基準にして右に行こうか左にするかと考える癖
がついている。
「まだ、時間早いしな飯でも食うか」ママの店を目で確認しながら声を出して言っ
た。この交差点を右に行くと中華料理店、コンビニ、安食堂、コインランドリー、
酒屋やらアパート、八百屋などが道端に軒を並べている。
僕は交差点を右に歩き入り口が開けっ放しになっている安食堂に入った。入り口の
すぐ脇、外の様子が見えるように席を取った。心の中で少し期待があった。この席
からママの店が見える事に。見えた。僕はドキドキした。時間帯からして、そろそ
ろ店に来て仕込みや掃除などしてもおかしくない。あせる気持ちを抑え、そうだ、
とりあえず何か注文しなければならないと気づき、ビニールの透明な下敷きみたい
なメニュー表を手にした。「すいません、かつ丼とラーメンお願いします」「はい
よ、かつ丼とラーメンね」料理が出てくるまで手持ちぶさたなので、漫画本でもと
店内を見回す。おっ、あったあった。その漫画本が乱雑に納まっているカラーボッ
クスまで取りに行き、表紙がラーメンの汁で汚れている本を持ってテーブルで読み
始めた。

77 :◆GNeSanpo26 :04/01/24 07:30
読み進めるうちに以外と面白い、僕は漫画に没頭していた。入り口に人が立つ気配が
したが気にせず心は漫画の世界に入ったままだった。
「おっ、露紀ちゃん めずらしいね、どうしたん」「おじさん、白ごはん少しわけて
くれる」頭の上から聞こえる声はママだった。意表を突かれた。「おっ、いいけど、
どしたん」「今日、炊飯機壊れちゃって、ごはん炊けなかったんよ」「おっ、そんじ
ゃぁ ちょっと待ってな」僕は漫画本から顔を上げるタイミングを失ってしまった。
もちろん、漫画の内容なんて頭から、すっとんだ。
「こんにち〜わ」あかん!明らかに僕に向かって声を掛けてきている。あかん、あかん
僕は観念した。顔を上げ、「どうも」さも今、気づいたふりをした自分に僕の中の小人
が「お前、わざとらしい」と囁く。とそこへ。「はい、おまち」かつ丼とラーメンが出
てきた。うっーよりによって二品も頼のんじゃった。完全に食いしん坊だと思われた。
「実はね、今さっきね、此処に入るところ見ちった、それでね」「車の中からね、気づ
かなかったでしょ」僕は割り箸を落としそうになった。 どういう事だ? んっ。
「露紀ちゃん、あいよ、お待たせ」「すいませんね、あんがとっ」「じゃあねっ」とそ
う言ってママは去った。僕はかつ丼とラーメンの味を覚えていない。

その夜、ママの店には行かなかった。というか行けなかった。

78 :◆GNeSanpo26 :04/01/24 07:33




79 :◆GNeSanpo26 :04/01/24 07:35
「おばちゃん、おでんちょうだい、たまごと大根入れてね、あとビールもう一本ね」
僕は注文しながらタバコに火を付けた。「人材派遣会社とはよく言ったもんで実態
はピンハネ会社」「俺らのひとりひとりの日当から一日5000円上前ハネて100人従業
員いりゃー 幾らになる」「単純計算してみ、一日で50万円だよそりゃー自社ビルも
建つわなー」僕はそんな話を黙って、おでんを突つきながら聞くのが好きだった。
天板のオレンヂが色あせた安テーブルの上にはおでんの皿、やきそばの皿、野菜いた
めの皿、スチールのぺらぺらな灰皿に吸いさしのタバコが載っている。話をしている
のは五十代で最年長と思われるいかつい顔をした大山さんはごつごつした大きな指で
箱から新たにタバコを一本抜き火をつけた。どうやら、吸いかけのタバコが灰皿に
あるのを忘れているらしい。黙って聞いている小柄で物静かな話し方をする四十代半
ばと思われる関口さんが笑いながら、灰皿を指差す「おっと、こりゃいかん」大山さ
んは照れたように慌てて灰皿の吸いさしを揉み消す。僕の相い向かいに座っ田宮さん
は「おちゃん、たのむでー」とみなの笑いを誘う。僕は最近この一杯飲み屋に週1〜3
回通うようになっていた。

僕が初めてこの一杯飲み屋に入ったのは。そう、二月のカレンダーが捲られ三月にな
っていた。
まだまだ春には程遠く外の おでん と大書きされた紺色の暖簾が北風に煽られアルミ
のガラス戸を叩いていた。店の中は人の息いきれとストーブの暖房とでガラスは白く
曇っていた。僕は少し迷ったがその店に入った。ジャンバーの襟をたて緊張と寒さで
強張った右手をガラス戸に掛けた。
ガラガラッ、瞬間、店の中の空気が止まるのが痛いほど分かる。視線が僕に集まって
いるのが分かる。常連客で賑わっている店に初めて入る時のこれがいつも僕を迷わせ
る。

80 :◆GNeSanpo26 :04/01/24 07:39
僕は四人掛けの安テーブルに席を決めるとこれまた緑色の丸い安イスに腰掛けた。
「いらっしゃい」お冷を店のおばちゃんが持ってきてくれた。もとは白かったと思わ
れる染みだらけの壁にお品書きが短冊に書かれ貼ってある。目でその文字を追いなが
ら、「とりあえずビールください」「あいよ」とおばちゃんは、すぐに大瓶のビール
とグラスを持ってきた。「あと、おでんお願いします」「適当に見繕っていいかい、
たまご入れるかい」「ええ、たまごと大根あとは適当でいいです」「あいよ」こうい
う店は気取らなくていい。客層も僕と同じで肉体労働者ばかりだった。

たまたま入ったこの店の隅で僕はひとりビールを飲んでいた。「あんちゃん、よかっ
たらこっち来ていっしょに飲まへん」そう声を掛けてきた人が田宮さんだった。むさ
苦しいおっちゃんばかりのこの店で唯一僕と同年代という気安さから声を掛けたらし
い。「あんちゃん、何処で働いてるん」僕はすぐ近くの会社の寮に入っていて派遣先
のビデオカセットテープ工場である事などを説明した。「なんや、現場が違うだけや
同じ会社の人間かいな」「俺らなそこの五階建ての古いビル見えるやろ、その寮に住
んでるんや会社はな市内にいくつも寮を持っててな現場もいくつもあるんや」「現場
っていくつもあるんですか」僕は聞いた。「ああ、俺らの寮だけで50人くらいいてな
現場は三つや、比較的、俺らの寮は肉体労働でもキツイ部門らしいなそんかわり日当
はええで」田宮さんの派遣先は電車の車軸などを作っている会社だと言った。三交代
制で夜勤あけなど朝からビールが飲める店は近くに此処しかないなどと教えてくれた。
僕は田宮さんのねずみ色の作業着に所々付いている油染みを眺めながら話を聞いてい
た。それからというもの田宮さんと店で顔を合わせるといつもテーブルを同じにする
ようになった。

81 :◆GNeSanpo26 :04/01/25 06:00
今日は隣のラインが止まっていた。どうもコンベアーの調子が悪いらしい。僕達
と違う色の作業服を着た工場の正社員が徹夜で直している。
その若い正社員は普段、昼間の勤務で主に機械のメンテナンスをする人なんだろう
はじめて見る顔だ。僕と同い年くらいかな。
おそらく、工業高校を卒業してこの工場に就職したのだろう。僕達みたいな現場
の末端、いや底辺で働く人間とは別な人種のように感じられる。
作業服の色からして違う事が気にくわない。正社員の彼になんの恨みもないが……
ただ、今日の心に白い波が打ち寄せているだけだ。明日になったら波は消える。
それも分かっている。
学歴の重みを痛いほど味わってきた。
その重みに耐えかね心が捻じれ荒みギシギシ音をたてていた。自分で決めた事だろ
うと心の中で自分に喝を入れる。

82 :◆GNeSanpo26 :04/01/25 06:11
ベルトコンベアーの上を流れるビデオカセットを眺めながら僕は数年前のある晩の
事を思い出していた。

「おじさんは高校しか出てないんだよ、今の職場ではさんざん 辛い思いをして
きた、大学出の後輩達にどんどん追い抜かれていく」おじさんはそこで
お茶を一口飲んで続けた「せめて高校くらい卒業しとけ それから、好きな事を
しても遅くはない」僕は畳の上で正座をし俯いていた。僕の隣でおふくろが茶碗の
を見つめていた。数日前、僕はおふくろに「学校やめるよ」と言った。僕がいったん
言いだしたら絶対に聞かないのをおふくろは良く知っている。最後の頼みの綱と
ばかりに此処に連れてこられ、僕は今、此処で正座をしている。昔からおじさん
の家は敷居が高かった。おじさんは地方公務員で県の土木事務所に勤めていた。
あと数年で定年という歳だ。僕はおじさんからそんな弱音ともとれる話を聞くのは
初めてだった。普段あまり話をした事はなく。僕にとっておじさんは強くて怖い
近寄りがたい存在だった。
当時の僕はおじさんの言葉を頭では理解したつもりだった。

83 :◆GNeSanpo26 :04/01/25 06:13
おふくろと今の義親父とは再婚だった。僕はおふくろの連れ子で四歳年下の妹は
おふくろと義親父との子だった。田舎に生きる息苦しさを感じ、義親父方の親戚、
いとこ達、全てから離れたかった。結局、僕はおじさんの助言を苦く感じ飲み込む
事が出来なかった。十七歳で高校を中退して家を飛び出した。
とにかく飯を食う為、必死に働いた。
いろいろな仕事をしたなかで、スコップも握った、安全靴もはいた。泊まる所もなく
金もなく公園で寝る事もあった。

84 :◆GNeSanpo26 :04/01/25 06:19
おじさんの言葉が身体に染み本当に理解できたのは十八歳の夏だった。
ある下水道本管の掘削工事現場だった、その工事は地下6m地点に直径3.5mのトンネル
を15キロメートル堀り進むという工事だった。シールド工法という最新式のドリルの
親分みたいな機械で岩盤を砕いていく。落盤事故、地下水の浸食等あり、かなり危険
な作業を伴う。職人達はセグメントと言うコンクリート枠を設置しながら堀り進める。
トンネル内にレールが敷かれトロッコ電車が残土を外に排出する。
僕は滴る汗をシャツの袖でぬぐい辛そうに残土をスコップでトロッコの荷台に積んで
いた。僕のだるそうな様子を見た隣のおっちゃんが僕に言う。
「俺たちゃぁ頭がねぇから身体泣かせなきぁ飯が食えねぇのぉ」ヘルメットに着けた
カンテラ明かりの先でおっちゃんの目尻にできた深い笑い皺が照らされた。
一日仕事が終わると身体がくたくたに疲れる。そんな現場でのある日、役所から工事
の進み具合について検査が入る事になった。
このような特殊な公共事業は当然、技術力のある大手ゼネコンが請け負う。
その日、県の土木事務所の役人が黒塗りの車に乗ってやって来た。
五十代の白髪まじりのゼネコンの現場代理人は自分の息子ほどの年齢に見える若い役人
に対して下にもおかないという丁重な対応をしていた。これが現実だと思った。

キンコンカンコン終業を知らせる音がスピーカーから流れる。
ふっー、やな事を思い出してしまった。
これも全て作業服の色が違うせいだと自分の心を誤魔化した。が心に嘘はつけない
事は自分でよく知っていた。とにかく波がおさまるまで待つしかない。

トンネルの中の闇を歩く気分を引きずりながら、ロッカー室で作業服を脱ぎ捨て思った。
暫くは一杯飲み屋のおでんとママの店に通う日々が続くなと。

85 :◆GNeSanpo26 :04/01/25 13:29
寮に帰り風呂も食事も取らず部屋に篭った。部屋の隅にあるつけっぱなしのテレビ
から朝のワイドショーが流れている。
ぼんやりと画面を眺め考え事をしていた。
ふと、おふくろに金でも送ってやるかと思った。ほんの気まぐれだった。
僕はジャンバーを羽織り、サイフの現金を確認した。「えっと紙、紙」
カラーボックスの隅に、ちょこんと買ったまま何も書かれていないノートがあった。
最初のページを丁寧に破り取る。ボールペンで
『元気でやっています。心配はいりません』これだけしか書かなかった。
それは、手紙といえるほどのものではなかった。その紙を四つ折りにしてポケットに
捻じ込む。

「すいません現金書留の封筒一枚ください」僕は冬の朝日が窓から差し込む閑散とした
郵便局の書き込み用の小さな台の上で封筒に宛名と寮の住所電話番号を記入した。
現金十万円にポケットから取り出した紙を添えた。
封をしてから自分で何でこんな事をいきなり思い付いたのか不思議に感じた。
「お願いします」封筒を受付に出し料金を支払い局を出た。
この三年間手紙ひとつ電話ひとつ家に入れなかった。たまにはこんな事するのもいいな
と自分に言い聞かせるように帰り道を歩いた。ふと、駐車場の赤い車が目に入った。
ボンネット上の陽だまりから猫が丸くなり眩しそうに僕を眺めていた。

86 :◆GNeSanpo26 :04/01/26 06:20
街には社会人になったばかりですと言わんばかりのスーツ姿やぶかぶかの学生服を
着ているあどけない顔の中学生が目立つ。季節はいつのまにか春になっていた。

「一番線から....行き列車、発車いたします 白線....」駅のプラット
ホームにアナウンスが流れる。プシュー とドアが閉まりガタン...ガタンと
ゆっくり発車した。暖房の効いたシートに疲れきった体を沈める。本当に疲れた。
はやく寮の部屋に帰り独りになりたかった。
車中の窓から外をぼんやり眺める。
ガラスに映る己の歪んだ顔と流れる風景に記憶がフラッシュバックする。ここ数日
の事だが何日も前のことのように感じる。三日前の朝だった。

その日、僕は夜勤の仕事明けいつものように寮の食堂で食事をしていた。
普段あまり顔を見せない寮の管理人さんが僕の所に来て
「朝早くに妹さんから電話があってあなたのお母さん亡くなったらしい、すぐ実家に
帰ってくれとの事だ」「仕事の方は心配しなくてもいいよ、すぐ帰ったほうがいいん
じゃないか」突然だった。
僕は実家に電話を入れ、これからすぐに帰る旨を伝えた。それから、駅に向かい電車
で実家へと急いだ。

87 :◆GNeSanpo26 :04/01/26 06:22
久しぶりに見る実家の建物はまるで他人の家のように感じた。
通夜の段取りで隣組のおばちゃん連中が台所に集まり料理や酒の用意をしてくれていた。
僕は妹の姿を目で探した。「お兄ちゃん」背中から声がした。
「何処にいたのよ、電話ひとつよこさずに」怒気を含んだその声に僕は返す言葉が無い。
「ちょっと来て」階段を上がり二階の妹の部屋に行く。
「はい」妹は僕の目の前にA4サイズの茶封筒を突き出す。「いいから中見て」
僕はその手垢で汚れた茶封筒を開けた。僕が一ヶ月前に送った現金書留が入っていた。
その他に写真やら書類やらが見える。
僕は現金書留を手に取り中を確認した。送ったお金が手付かずのまま、紙といっしょに
入っている。
現金書留の封筒の表面は何度も何度も手にした、おふくろの指の汚れがついていた。
「お兄ちゃん、お母さんね、お兄ちゃんが居なくなってからも毎月、毎月 お兄ちゃん
の高校に学費納めてたよ、いつ帰ってきてもいいようにって、わたしに言い訳するよう
に二年だよ、二年間だよ わかる、お兄ちゃん」
「お母さん病院に運ばれて、暫くは意識あったんだよ」
「死ぬ間際にこの封筒の置き場所とお兄ちゃんの名前呼んでた」
「書留にある連絡先……そうじゃないとおにいちゃんの居場所 分かんないじゃない」
妹は泣きくずれた。

88 :◆GNeSanpo26 :04/01/28 12:07
僕は寮に戻った。その足で管理人室に行き、トントン、「はいどうぞ」
「失礼します」「おうおう、どした」
「あの、急で申し訳ないのですが、今月いっぱいで辞めさせてもらいたいのですが」
管理人さんはあごに手を当て
「うーん、分かった、私のほうから事務に連絡しときますよ」
「お願いします」

その夜、僕はママの店に行った。

89 :◆GNeSanpo26 :04/01/28 12:08
「今月いっぱいで仕事やめる事にしました」僕はママの目を見ずにグラスの中の
氷の塊をみつめながら言った。
「そう、じぁさハローワーク行ってみたら ねぇ」
「あっ、次の仕事決まってるん、もし、決まってないんだったら……」
ママは僕がこの地を離れるつもりでいるのを知らないので単なる転職だと
思っているみたいだ。「寮出なきゃだね、住むとこあんの」ママはそう言い
ながら、カウンターの内側でボールペンを手にとり何か書いていた。
「ええ、とりあえず住む所は確保しました」僕は嘘を言った。
「はいっ」カウンターの上に小さな紙が置かれた。それは請求伝票の裏に書かれた
電話番号だった。
「わたしんちの番号、相談乗るよっと」ママは嬉しそうに言った。
僕は困った受け取るべきか受け取らないほうが…… 栃木と僕の地元とは絶望的な
距離がありすぎた。
僕はこのまま何も言わず地元に帰るつもりだった。今日が最後だ。
「もし、アパート借りるんだったら不動産屋も知り合いいるし力になれると思うよ」
「実は地元に帰ることにしたんです」 「そう……」
「だから、電話は……」暫く無言の間があった。「じゃいらないねっ」とママは
言いながら、カウンターの上にある小さな紙をひょいと取り上げた。
気まずい沈黙が続いた。ママはカウンターの内側で紙に何かを書いている。
僕の座っている位置からは何を書いているのかは見えない。「なに書いてるんですか」
「落書き」そっけない答えが返ってきた。
僕は居たたまれなくなり「さて、そろそろ帰ります」と腰を上げた。その時
ちらっと見えてしまった。『意気地なし』そう書かれてあった。

90 :◆GNeSanpo26 :04/01/28 12:10
深夜の工場 人声は聞こえず、機械の発する定期的なエアーを吸い込む音が
シューシューヒュ 
ゴムの吸盤にVHSのビデオテープが吸いつけられ製造ラインを流れていく。

今日でこの仕事も最後だった。キンコンカンコン
いつものように休憩の合図がスピーカーから流れる。ポンッと背中を叩かれた。
「おうっ休憩だ」藤崎さんだった。
「あんちゃん、今日で最後だって」「ええ、短い間ですけどお世話になりました」
ふと、藤崎さんに聞いてみたくなった。
僕は机を指差し「あの……これ藤崎さんが書いたんですか」「ああそれか」
藤崎さんは笑いながら「誰が書いたんだろな、まぁ俺が書きましたなんつぅ奴は
この会社にゃいねぇな」「名無しの権べい作 だからみんなこの机を大事にするんじ
ねぇのか」藤崎さんはここで一呼吸置き、
「人間っうのは何度でも、やり直しができるんだな」そう言って喫煙室のほうに歩いて
いった。
僕は流れるビデオカセットテープの横で
『ひとあれどひとごみの中に人はなし』の下に
されど人みな ひとに寄り添う と人差し指の腹で机の上に付け足した。
それは僕だけにしか見えない文字だった。



91 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 01:24
ぷっはーー。起きた!

92 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 01:24
よっしゃーー今日からここを遊び場にするんじゃーー。

93 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 01:25
ということで、まずはコーシーでも飲も!

94 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 01:34
さてさて、今宵はなにを書きましょう。

95 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 01:43
   「天使 だ」

刹那の海に足をつけ
うとうとと少しまどろむ
いつの間に満潮になったのだろう
ぷかぷかと漂うことの心地良さ

欲望の空に羽を広げ
ガツガツと前にすすむ
いつの間に冷酷になったのだろう
ふわふわと漂うことの心地良さ

誘惑の宇宙に船飛ばし
とろけるような快感に
いつの間に無気力になったのだろう
ぷかぷかと漂うことの心地良さ

ふと 背中の翼が気になり目をやれば……








「ルシファー!」 友が呼んでいる 行かなけゃ……

96 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 01:46
メディア プレーヤー起動!

97 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 01:54
平原綾香のジュピターという曲を聴いていたら思わず涙がでた。

98 :◆GNeSanpo26 :04/02/20 02:41
       「楽園」

夜の難民はバックを背中に担ぎ
楽園をめざしひたすら歩いている
ある日道端に転がる小箱を見つけ
旅人はポケットから音の鍵を
取り出しその箱に差しこむ

ゆらゆらと音の世界に身をゆだね
とろけるような感覚 なんだろう?
涙があふれてくるのは   なぜ?

旅人はやさしさをバックに詰め歩く


夜の難民はバックを背中に担ぎ
刹那をめざしひたすら歩いている
ある日道端に転がる紙切れを見つけ
旅人はポケットから絵筆を
取り出しその紙に色を射しこむ

ゆらゆらと色の世界に身をゆだね
吸い込まれそうな感覚 なんだろう?
希望があふれてくるのは   なぜ?

旅人はやさしさをバックに拾い歩く

99 :◆GNeSanpo26 :04/02/21 06:53
指に触れ そっとなぞりし 過去未来

100 :◆GNeSanpo26 :04/02/22 20:54
     「届け」

ひかり溢るる街路樹の影
振り返りし夏の思い出
遠く近く鳴く蝉しぐれ

もし想いに色があるならば
届け虹となりあなたの許へ

いろ鮮やかな紅もみじの葉
足早に去る秋の思い出
遠く高く流れる蒼き空

もし想いに音があるならば
届け曲となりあなたの許へ

こぼれる想いが文字となり
明けの夜空にひかりと届け

101 :◆GNeSanpo26 :04/02/23 21:15
ぷっはーー。起きた!

102 :◆GNeSanpo26 :04/02/23 21:15
さてさて、コーヒーでも飲みまひょ!

103 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/23 21:26
フルネームに戻してみたぞい。

104 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/23 21:39
                    ある日の電話

パラボラレリ♪ パラボラレリ♪ 着信音が鳴っている。
誰からの電話か通話ボタンを押す前からなんとなく分かる。私は電話に出ない。
そろそろ、夕食の支度をしなければ、ふと、そんな考えが頭をよぎった。
まだ、携帯電話が鳴っている。私は、出ない。携帯を部屋に置いたまま
私は夕食の買出しに出掛けた。店に着き買い物カゴを手に取り店内をぶらぶらと
歩きながら買い物を楽しむ。

アパートに帰りスーパーの袋を台所の床に置きそのまま、風呂場に行きシャワー
を浴びる。シャワーを終え部屋に戻ると、
まだ、携帯電話がパラボラレリ♪ パラボラレリ♪ 鳴っている。私は出ない。
台所に行きタラコスパケティーを作り始める。さぁさぁっと作り終え部屋に
持ち帰りテレビのスイッチを入れる。コマーシャルが流れている。画面のなかには
2人の若い女性が踊りながらなにか喋っている。どうやら、お茶のCMらしい。

105 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/23 21:42
携帯電話はあいかわらず鳴っている。私は、ホークの先で携帯電話を突いたみた。
変化は無い。
ホークの先は通話ボタンに触れていないから。
かまわず、スパゲッテーを食べきる。
テレビのチャンネルを変える。おもしろい番組がない。リモコンのボタンをいろいろと
いじりながらチャンネルをあちこち変える。
まだ、携帯は鳴っている。いくら鳴らしても出ない。
急にリモコンの先にある電波を発信する装置が見たくなり、リモコンを分解してみた。
マイナスドライバーでこじって開けた。
なんの事はない、ただの基盤にいろいろな物が載ってハンダで付いているだけである。
リモコンに興味を失い、軽く放り投げてみた。 放った方角が悪かった。
携帯電話の通話ボタンに直撃だ。電話が繋がってしまった。 あかん、
おもわず、携帯を手に取り電話に出てしまった。
「もしもし……」相手の声が聞こえてくる。若い男性の声だ。 
私はその声を聞き、私の頭のなかの人物と違ったことを確認した。
「はい……」私が答える
相手の声はこう言った。
「女って…… ……」 プープープープー 電話が切れた。

あれから、一週間が経ったが、謎の若い男性からは電話はない。
おまえは    誰だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

106 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/23 22:01
       「くちづけ」

そっと落ち 眠りの国へ 旅にでる
うつろう意識 夢とうつつの
ラジカセの 悲しい歌に 身をまかせ
ゆらゆらゆらと 溶けゆくからだ
とけるよな 夢のつづきを みせてくれ

今宵すこしのあいだ夢の中

107 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/25 21:41
ぷっはーー。起きた!

108 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/25 21:47
コーシー飲むよ。
のっん……飲んでいいか?
飲むぞ、本当に飲むぞ。
飲むっていったら飲むかんね!

コーシー飲むんじゃーーーーーーーー!

                       …本当に飲んでいいか?


109 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/25 21:48
と いうわけでコーシータイム!

110 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/25 21:58
さてさて、今宵はなにを書きましょう

111 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/25 22:37
うぅ〜〜〜んっ な…なに…… 
                 なにも書けん…
                         のじゃーーーーーーーーーー。

112 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/25 22:38
寝よ。おやしみ〜〜

113 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:12
ぷっはーー。起きた!

114 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:13
うぅ、今日は冷えるの

115 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:14
コーシー作るのめんどくさ

116 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:14
まずはタボコでも…… 一服

117 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:17
あっ! 思い出した。コーシー豆切らしちまったんだんだ。

118 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:18
今日、買ってこよ。

119 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:51
街並みに 西日照らされ 刹那色
笑顔行きかう 人の波色

120 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/27 05:52
銀の糸 金の糸とで 西日織り
せつない色を 布に仕上げし

121 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/28 05:35
ぷっはーー。起きた!

122 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/28 05:36
さてさて、ガーヒーでも飲も!

123 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/28 05:44
コンビニは わたしの巨大な 冷蔵庫

124 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/28 05:49
本日も冷えるの

125 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/28 05:58
                    「紅しょうが」

オレンヂ色のTシャツを着たアルバイトのあんちゃんがお冷を手に注文を取りに来る。
「並ひとつ」私はカウンターに腰掛けるやいなや注文をした。
「並一丁入りました」とあんちゃんの大きな声を聞きながら私はお冷に口をつける。
火照った身体に心地よい感覚が喉を落ちる。
「ふっー」と一息つき周りを見渡す余裕が出来た。若者達がテーブル席で会話をして
いるのが聞こえてくる「バックドロップくらうと頭の奥にきな臭いにおいがするって
言うけど本当か……」そんな若者達のたわいもない会話、深夜の時間帯よく見る光景だ。
しかし、その日は特別だった。
U字型のカウンターの一番端にちょこんとショートカットでボーイッシュな女の子が
座っている。私と目が合いニコッと微笑む。私もつられて柄にもなくニコッとして
しまい照れくささを誤魔化す為に咳払いをするはめになってしまった。
それほど不思議な魅力ある微笑みだったのだ。
彼女についての不思議といえばもうひとつ……
彼女のテーブルの前には牛丼のどんぶりも無ければお冷のグラスもない。

126 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/28 06:00
「おまちどうさまでした」私の前に並盛りが置かれた。
私は彼女から目線を丼に移しそれから紅しょうがを取り牛丼の上に少し多めに載せた。
割り箸を手に食べはじめる。半分ほど食べた頃だろうか、ふと彼女のほうに目をやると
彼女は先ほどと変らずちょこんと座っていた。がなにかおかしい。なんだろう。
「あっ」私は思わず箸を落とした。
彼女の体が透けている。ふくよかな胸の向こう側にある四人掛けのテーブルが見える。
「お客さん見えるんですか?」私の事を見ていたアルバイトのあんちゃんがそう言った。
「美少女ですよね〜この世の人じゃないですけどね〜」「僕らの間では紅しょうがの精と
呼んでるんですよ、お客さん紅しょうか好きでしょう」



127 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 04:38
ぷっはーー。起きた!

128 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 04:39
ぎぃええええええええーーーーーーー。
タボコが切れた。

129 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 04:40
くそっ! こうなったら買いにいくしかないのか?

130 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 04:45
軽四輪のエンジンに火を入れてきたぞい。
田舎はタボコひとつ買うにも大変なんじゃーーーー。

131 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:00
今、戻った!休日の朝はいいね!街が眠ってる感じが好き。

132 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:42
そうだ、京都に行こう! という感覚で旅に出られたら楽しいだろうな。
思いついたその日にバックひとつ右手に旅の空なぁ〜んて最高。
何処に行くあてもなく、ふらっと出る。
地図なんて持たない。

133 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:44
私は今日から空想の旅に出かけます。
空想ですからどこにでも行けます。
もし、ひょんな事から1億円が労せず手に入ってしまった。 
という設定で……
そのお金を旅の資金に空想上の各地を巡ります。
では、これから、いってきます。

134 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:46
さてさて、何処にいきますかね。資金はたっぷりあるし。
とりあえず、シティーバンクに全額をドル立てでぶち込んでおきましょう。
おっと、当面の準備金として一束だけ手元に置いておかなくっちゃ。

135 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:48
今日は、デパートに行き背中に背負うバックを買ってきましょう。
その他、こまごまとした物も。そのまま、車で旅に出ると。
めざすは、京都かな。

136 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:49
車のエンジンをかけて、家のとじまりをして、出発です。
わすれ物はないかな。
まあ、なにか忘れても途中で買えばいいか。

137 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:51
キーをまわしエンジンに火を入れます。低音の排気音が心地よい。
窓を少し開け外の空気を入れる。タバコを取り出し火を付ける。
紫の煙が細く開けた窓から吸い出されていく。
愛車の軽自動車は機嫌がいいようだ。
ついでに私も機嫌がいい。ハンドルも軽い。

138 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 06:52
ハンドルを右に切り、国道17号を都内に向けて走ります。

139 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 07:00
今、朝の07:00だからゆっくり走って高島平あたりで09:30
都内に入ったら一休みをしてどこか、適当な所でバックを買おう。
その後、東名高速に乗り一路西へ。
などと、考えながらハンドルをにぎっている。窓外の景色が色鮮やかに
感じる。自由を実感する。どこに行くあてもなく、ぶらり旅だ。

140 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 07:03
全線高速道路を使って10時間もぶっ飛ばせば京都に着くだろう。
泊まる旅館は現地で探せばよろし。京都見物じゃ。ヤッホーーーー。

141 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 07:15
私はとりあえず京都でぶらぶらと日本を満喫してその後、国外に出ようと
考えている。
とにかく日本を離れる前に日本を堪能したい。
京都に着いたら旅行代理店に電話をしてチケットの手配をしょう。
格安チケットである。なぜに、と、
資金は使いきれないほど手元にあるのに?
私は今日、背中に背負うバックを購入する。
これでバックパッカーになるのである。だから、格安チケットなのである。

142 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 07:24
私は京都をおもうぞんぶん楽しみ、今、パキスタン航空の機上の人になっている。
わははは。。京都から成田までは私の脳内で満喫処理をしてしまった。

成田を夕方6時すぎに飛び立ち、日本時間の10時過ぎにニノイ・アキノ国際空港に
着く予定である。現地時間では1時間時差があるので夜の9時ちょい杉になって
いるであろう。

成田を飛び立ち、はや1時間がたとうとしている。スチュワーデスが機内サービスの
夕飯を配り始めている。私のところにも来た。
「ビーフ or チキン」 との質問があり、
「びーふ ぷりーず」などとうわずった声で注文してしまった。 今、食べている。
おいしいと思た。以外と量もあり、たいへん満足した。

143 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 07:43
機がフィリピンに近くなるのか機内の温度が、いくぶく暖かく感じる。
窓の外を眺めるが、闇である。

眼下に街の明かりが見えてきた。機はゆっくり旋回しているようだ。
英語のアナウンスが流れる。たぶんシートベルトを着用しなさいとでも
言っているのだろう。それにしても機内がさきほどよりも暖かい。

144 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 07:54
私は空港に降り立ち、税関を抜け歩いて行く。蛍光灯に照らされた閑散としたロビー、
荷物が流れてくるターンテーブルの前で私は自分のバックを待つ。
ほどなくして、バックがやって来た。と、同時に見知らぬ少年も私の脇にやって来た。

その少年は私のバックを持ってやるというジェスチャーをする。
「はぁぁ、これはもしかして荷物持ちをするからチップをくれという手合いだな」
と思い私はその少年に丁重に 
「 ノー サンキュウ 」と言ってやった。

彼もなれたもので、笑顔を残して去っていった。が彼は次の獲物にアタックしていた。

145 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 08:11
私はロビーを出て、外のタクシー乗り場まで行く。一台のタクシーに乗り込み、
運転手のおっちゃんにブルーバードストリート沿いの安宿にいくよう告げる。
私は、ろくすっぽ英語など話せないので必死に単語を並べそれこそ全身を使い
身振り手振りで右手にガイドブック “地球の歩き方” を持ち説明する。
ようやく、おっちゃんは了解してくれた。

安宿は繁華街にほど近く部屋の窓から海が見えた。初日なので安宿といっても
一泊日本円で¥2,500〜3,000もする。
マンション形式のホテルである。部屋がふたつもありトイレ、バス、キッチンもあり、
電気式のコンロまである。なべ、フライパン、皿、フォーク、ナイフ。
そのまま、自炊が出来る形式のチョツト日本にはないタイプのホテルだ。 
まぁ、初日だから ちょいと贅沢もよかろう。

落ち着いたら宿を変えるべ。よっしゃ、明日から街を探検じゃ。 寝る。

146 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 08:26
目が覚め時計の針を確認すると短針が 9 を指している。ボーとした頭で 
「よく寝たな」 と考えた。  窓の外からは南国のつよい日差しが注いでいる。
私は窓ぎわに行き外を眺める。
えび茶色のトタン屋根、古びた鉄筋コンクリートの2〜3階建てのビル群。 
それらのビルは日本ではまず見ない古めかしい20〜30前に建てられて
メンテナンスが行き届いていない外観を醸し出している。 

それらの風景に南国の太陽が青い空に張り付いている。
青いそらに、えび茶色のトタン、からっとした太陽。

なにか写真で見た昔の日本、そう、30年前の日本の風景。不思議な風景のなかに
懐かしさを感ていると、「グー」おなかの腹へり虫が現実に引き戻してくれた。
腹は正直である。

147 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 08:36
バックを背負い階下に下りる。カウンターでチェツクアウトをして鍵を返す。
重いドアを押し道路に出る。 
もわぁ〜とした肌を包み込むような暖かい空気が私を襲う。おもわず、180度
反転してさっきのドアを開け空調の利いた世界に戻ろうか。と思た。しかし、
空腹には勝てなかったので右足から一歩踏み出すことにした。

148 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 08:49
私が泊まっていたホテルの三軒隣にマクドナルドを発見した。
さっそく入る事にした。
入り口に紺の制服を着たいかにも気の良さそうなおっちゃんが立っている。
おっちゃんの脇の下にはライフル銃が銃身を下に……  
マクドナルドの店内は家族連れやらカップルなどでそこそこにぎわっているようだ。
おそらく私は一瞬固まったのだろう。
その事をおっちゃんはすばやく見抜き大事な客を逃がしてはいかん!とでも
思ったのか。おっちゃんは笑顔で入り口のドアを開けてくれた。
「サ、サンキュウ」
私は素直に入る。マクドナルドのカウンターのおねえちゃんは笑顔で迎えてくれた。

149 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 09:04
メニューは基本的なものは日本と変わりない。私はスパゲッテーミートソースと
ホットドックとコーヒーを頼んだ。
トレーを持ち空いている席に座り食べ始める。美味い。とにかく美味い。美味い。
食べながらさきほどの私設ガードマンのおっちゃんの事を考えていた。

まず、銃を携行したガードマンがいるということは日本ではめったに見ない光景で
ある。しかも、普通のマクドナルドの入り口である。

そんな事をつらつら考えながらいつもまにか、すべて食べつくしてしまった。
私は最後の一口残ったコーヒーを喉に流し込んだ。
さてさて、これから何処にいきましょうか。時間はたっぷりあります。

150 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 09:23
私はマクドナルドを出ると何処にいくともなくぶらぶらと歩いてみた。
道路脇にはいろいろなお店が軒を連ねている。
一軒の八百屋さんが目に入ってきた。
店先に並んでいるマンゴー、バナナ、色とりどりの野菜達。

私がそれらをなんとなく眺めていると
歳の頃、二十代前半の若い女性がマンゴーを指さし店の人に注文した。
店の人は紙袋にマンゴーを詰め始めた。

私は生まれて一度もマンゴーという物を食べた事がない。黄色く熟れた
マンゴーとはどのような味なのだろう。そんな事を考えながら、ボケーと
店先を眺めていた。なにやら店の人が私に話しかけてきた。

現地のタガログ語なのでさっぱり分からない。
とりあえず、「わたしゃにもマンゴーひとつ くれ」と日本語で言ってやった。
不覚にも店の人に日本語が通じてしまった。
マンゴーひとつ 買わされてしまった。実は店の人は商売上手だったのかも…
しれない。

151 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 09:41
私は海岸方面に歩き始めた。この道をまっすぐ行くとT字路になりその先は
広大な海である。
海岸沿いの道は広々としていて道路脇にはヤシの木が規則正しく並んでいる。
サンサンと降り注ぐ太陽の光を浴びて広々とした道をオープンカーが
と言いたいところだが、15年前位のボロボロの車が走り抜けていった。

152 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 09:50
海を眺めながらタバコに火を付ける。目に入るヤシの木と広い海どことなく
漂う異国情緒。っていうか異国情緒ありすぎ。

う〜ん、日本を離れたんだなぁ〜。手を上にあげおもいっきり伸びをする。
私は喉の乾きを覚えジュースの自動販売機がないか周りを見まわした。
「しょうがない、一服したらジュースでも買いに行こう」 

また、もと来た道をもどりながら、自販機を目でさがしていた。しかし、
自販機など何処にもありそうにない。そういえば、この国に来て一度も
自販機を目にした事がないと気づく。

153 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 10:10
道を歩いていると一軒のオープンカフェ風の店を発見した。その店のテーブル
イスが道路にはみ出している。

あきらかに道路が店の一部をなしている。実にオープンな店だった。
私はためらわずにその店に入った。通りに面している席に座りコーラを注文し
外を眺める。

コーラを持って来た女の子が ハッとするほど美形であった。思わず ジッと
その子の顔を見てしまうほどだ。

推測してみるにスペイン系の血が入っているのだろう。それにしても びっくりで
ある。

私はグラスを手に口に運んだ。
さきほどの美形が目を刺激してくれたので私はコーラの炭酸で喉を刺激してみる。
目も喉もここち良い。

154 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 10:25
さて、お金を払いまひょと思い小銭を取り出し見てみれば、現地通貨ペソが残り
すくなになっていることに気づく。

そういゃ、空港でとりあえず¥10,000だけ両替したのだ。

よっしゃ、ペソに両替じゃ。私はこの国がまだよう分からないので無難に銀行で
マネーチェンジを行うことにした。

私は旅に出る前にシティバンクに全額ドル立てで置いてあるので
シティバンクを探すことにした。銀行はすぐに見つかった。

広いロビーを見渡し外貨両替カウンターに行く。パスポートの提示を求めらた。
安いレートである。¥10.000で2,500ペソになる計算であった。

闇の両替屋ではもっと良いレートなのであろう。私はまだ、この国の事情がよく
掴めてないので闇屋に手を出すのは控えておくことにしたのだ。

両替証明書をもらい銀行のドアを押し外に出ると、ドンと誰かがぶっかってきた。
道路に紙袋が落ちる。
袋の中から黄色のマンゴーがころころと転がる。

155 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 10:36
「ソーリー」「あ! ごめんなさい」英語と日本語で……
相手の顔を見た。さきほどの八百屋でマンゴーを買っていた女性である。

お互い同時に八百屋でのことに気がついた。「日本人ですか」と彼女が言う。
私は一瞬自分の耳を疑った。流暢な日本語が聞こえてきたのだ。
「日本人ですよね」 
「は、はい…… 日本語しゃべれる ですか?」と私のほうがなにかおかしい
日本語になってしまった。

それが、リサとの初めての出会いだった。

156 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 10:53
「だいじょうぶですか?」「えぇ、大丈夫です」と私は答え、
「それよりも、マンゴーが……」 二人でマンゴーを拾いながら少し彼女と
会話をした。「日本語お上手ですね」
「はい、日本に八回行った事あります」彼女は指で数を示しながら
「日本、わたしベテランです」と言った。

「わたしの家すぐそこ」彼女の指差す方向を見るとえび茶色の掘っ立て小屋 
がいくつも並んで建っている。

彼女は私の手を取り「わたしの家に来なさい」「あなた、腕から血が出てる」 
そう言うが早いか、ずんずんと私を引きずるように歩きだした。

157 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 11:19
私は彼女の後について行った。
家に着くと彼女は妹らしき女の子に消毒薬と絆創膏を持ってくるよう指示をした。 
彼女と目が合うと彼女は ニコッと微笑んだ。
目に力がある人だな、吸い込まれそうだ。そう感じた。

158 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 11:51
私が腕の治療をしてもらっている間、
彼女の家にはいろいろな人が出入りしている。みな、ふらり入ってきて
私と目が合うと軽く会釈をしてくれる。

家の立地が日本の長屋みたいな感じで隣と隣がくっついているので推測するに
おそらく近所の人達なのだろう。

日本人がめずらしいのか入れ替わり立ち代り人が来る。
妹らしき女の子は絆創膏を貼り終え。最後に軽く、ポンと叩いく。
「いたぃ」 私は顔をしかめた。女の子は悪戯な笑顔を私に向けた。

159 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 12:04
「お腹すいてないですか?」そういえば腹へっている。ことに気づいた。
私は答えを躊躇していると、 
「もし、よかったら ごはん食べていけ」とリサは普通に言う。

おそらく日本と文化が違うのだろう。初対面の人間に、なぜにという疑問も
頭にかすめたが……

フィリピンの一般家庭の、ごはん食べたい……
妹らしき女の子が私の顔をのぞき込み左手に皿、右手にスプーンを持つ
仕草をしながら「マサラップ マサラップ」となにか説明してる。

「マサラップ……」私は問い返した。「イエス、ベリーベリーグット」
「ナイス ティスト」と返ってきた。私でもこの位は理解できる。
「マサラップ」は「おいしい」だと理解した。

160 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 12:30
フィリピンのごはん。なんと主食は、お米 日本と同じであった。少し、びっくり。
英語を第二母国語として話す民族なので、てっきりパンが主食だと思っていた。

ごはんは普通の平皿に盛られ、左手にホーク 右手にスプーンを持ち食事をする。
これにも びっくり。

私は、テーブルに置かれたおかず類に興味津々でそれらに手を伸ばす。
じゃがいも、青野菜などが入ったスープをスプーンですくって飲んでみる。
少し酸味のきいた味である。

ごはんを口にいれる。日本のお米より、ぱさぱさしている感じだが、まずくはない。
むしろ、硬めに炊いたごはんが好きな私にとっては美味しく感じる。

その他、牛肉をスプーンで千切れる位、やわらかく煮込んだ料理。これは絶品。
料理の名前は分からないが日本のやきそばに似た麺料理。これも美味い。

私は、興味の赴くままに口に料理を放り込み、気づいてみればたらふく食べていた。
満腹だ。あかん、初対面なのに日本人は食い意地が張っていると思われたかも…

しかし、リサの私に対する気遣いがなぜか、初対面と感じさせないのである。
そうした雰囲気が私に食欲を増進させ、又、遠慮という感覚を麻痺させたのでは
ないかと考えている。と言い訳を記する。

161 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/02/29 12:45
食事の席でリサの兄弟、姉妹に話が及んだ。私に絆創膏を貼ってくれた女の子が
一番下の妹で現在18歳のジュディー。リサとジュディーの間に上の妹がいて
19歳のマリア。リサを長女とする3姉妹である。

リサのすぐ上に次男のボン、24歳。その上に長男がいるらしいが、今日はこの
食卓にはいない。
長男はマニラ市の有名なホテルでボーイの仕事をしているらしい。
現在はマニラ市にアパートを借りてこの家から出ているとの事である。

リサは5人きょうだいの長女、22歳である。
長男を除き、次男、リサ、マリア、ジュディー、母親とでこの家に住んでいるらしい。

食事の間、近所の人もかってに入ってきて当たり前の顔で食べていく。おもろい。
やはり日本と違う。

リサは、五年間で八回、日本にダンサーとして行っているらしい。その収入で家族を
養っているとのことである。
なるほど、日本語が上手い訳である。しかし、時々へんな訛りがでるのは、日本での
お店が地方だったのかもしれないな。と思た。

「あなた、マニラの何処に泊まってる?」リサが聞いてきた。私はブルーバード
ストリートにある昨夜泊まったホテルの名前を教えた。

162 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 05:01
ぷっはーー。起きた!

163 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 05:02
うがーーーーーーコーシー作るど!zh.s@うぁ打ち間違え まぁいいか。

164 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 05:10
コーシーいれるつもりがホットココアいれてしもた。熱っふぅーふぅーっ
冷まさなきゃね。

165 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 05:22
リサ達、三姉妹にホテルまでタクシーで送ってもらい。
リサは別れ際タクシーの車中で電話番号の書いた紙を私に手渡した。
「私の家には電話ない」 「この番号 隣のサリサリストア(雑貨屋)の電話」 
「リサを呼び出せば大丈夫」
彼女は屈託なく笑う。そんなこんなでタクシーはいつのまにかホテルの前に。

昨日と同じ部屋にもどり窓の外を眺める。太陽の光はいくぶんやわらかくなり
夕方の町並みを照らしている。
海の上にオレンジ色の太陽、マニラベイには恋人達の影があちらこちらに見られる。
えび茶色のトタン屋根にオレンジ色が反射している中、人々の生活の喧騒が交差する。
不思議な街。

さて、明日は何処に行こう。フィリピンは 7000からの島々からなる島国である。
無人島を含めいろいろな島があるはずである。

移動手段は飛行機の国内線か船になるんだろうなぁ〜
とりあえず、セブ島でも行ってみるか。
ベットに横になりそんな事を考えていると、いつの間にか眠ってしまっていた。

166 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 05:38
背中がシートに押し付けられる感覚を感じながら機は高度を上げている。
シートベルトのランプが消え安定した飛行に移った。
私はフィリピン航空の国内線でセブ島に向かっている。1時間弱でセブ島
に着く予定である。機内の窓から眺める空は機嫌が良く晴れていた。
フィリピンエアーラインの制服を着たおねえちゃんが紙パック入りの
マンゴージュースとまるい形の直径10cmはあろうかというクッキーを
配っている。今そのクッキーが目の前にあるが食べようか食べまいか迷って
いる。もし、食べきれなかったら? という危惧があるのだ。
セロハンの包みを一度剥がしてしまうとバックの中でクッキーが細胞分裂を
繰り返し大変な事になる。かといって機内に食べ残しを置いていくのも
申し訳ない。
私は覚悟を決めその大振りなクッキーの透明なセロハンをはがし口に入れた。 
美味かった。

そんなこんなで、クッキーとマンゴージュースを堪能してる間に機はセブ空港に
着いてしまった。
セブ島はいかにも、のんびりしている感が空港にも漂っている。
タラップを降りた瞬間にそう思た。景色がゆったりしているのだ。税関職員も
ゆったりしている。職員の顔を見た瞬間にそう思た。

167 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 05:46
私はおしっこがしたくなりトイレに駆け込む。と見知らぬ少年がトイレの入り口に
待機している。
かまわず、用を済まし、手を洗う為、蛇口に近寄る、と先の少年が、さっと蛇口を
ひねってくれる。私は素直に水流に手をかざす。と少年はさっとティツシュを数枚、
私の目の前に差し出す
私はそのティツシュを受け取るか受け取るまいか2秒ほど考えた。があっさり受け
取った。が少年にチップを取られた。
私の負けである。

私は空港の建物を出てタクシーを捕まえ安宿メルセデスホテルに行くよう運転手に
告げる。
車はセブの中央に位置する街の繁華街のロータリーを抜け登り坂を走って行く。
ほどなくして安宿に到着。運ちゃんに料金を払い、ホテルの扉を開けるとすぐに
受付カウンターである。カウンターには若い男性が椅子に座っていた。
泊まりたい旨を伝えるとルームキーを差し出し私の荷物を持ってくれ部屋に案内して
くれる。私はすぐさまベットにどさっと身を横たえ少し休憩を取る。

168 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 06:13
ハッと目が覚めた。寝てしまったようである。外の気配が夕方になっている。
自分では少しの時間、横になっていたと思ったが実際はかなりの時間寝てしまって
いたようだ。
おかげで体が軽くなった感じがする。ボーとした頭でシャワーをするかと考えていると
グーと虫が鳴いた。我の腹時計は正確である。

よし! シャワーをしてから外でめしじゃーーーーーーーーーー。
私は手早くシャワーをして濡れた髪のまま外に出る。通りをぶらぶらと歩いていると
一軒の定食屋みたいな店を発見。
さっそくテーブルに着き。メニューを開く が 読めない。
なんたる事か。こんなことなら学生時代に英語をもっと身を入れて勉強しておくのだっ
た。英語が読めずセブ島の定食屋で餓死するわけにはいかん。
どうにかこうにか、Chicken という単語を発見した。推測するに
チキン 鶏肉 よし! これだ、これを注文しよう。
それと、ガーリックライスもなんとか解読でき注文。スープ類が解読不能であきらめて
コーラにする。このコーラも曲者である。
コークになっている。国が変わるとコーラもコークに変身とは……

目の前に皿が2つ並んだ。ひとつはガーリックライス。もうひとつの皿の上には鶏肉の
から揚げ。
から揚げを食べてみる。素朴な味でなかなか美味い。
ガーリックライスを一口、これはかなり美味い。美味い。もう少しおかずの皿がほしい
ところだが、良しとする。

169 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 06:22
私は代金を支払い。店を出る。タクシーに乗る為タクシーを探すが見つからず、さきほ
どの店に戻り店からタクシーを呼んでもらう事にした。
行き先はすでに決めている。 ネオン輝く世界。虚構の世界。
一攫千金の世界。そう、その名は カジノ オブ フィリピーノォ

タクシーはカジノ オブ フィリピーノォの建物の前に横付けされた。私は後部座席の
ドアを閉め、カジノの入り口に立つ、建物を見上げたが私が想像してたより建物の外観
は地味である。
私の想像ではテレビなどで見るアメリカのカジノを頭のなかで描いていた。しかし、
此処フィリピンではひつとの大きな建物全体がカジノになっていて外観はネオンがピカピカという感じではない。

入り口でいくばくかの入場料を払い、いざ、中へ。 うわ、すごい。やはりカジノで
ある。煌びやかな世界である。なかは兎に角広い。広い。
天井も高い。高い。中央に舞台があり、グランドピアノの音が静かに流れている。
ピアノの隣には椅子に腰掛けてヴァイオリンの引いている人がいる。
空間はゆったりと、とってあり快適である。奥の方にはスロットのマシンがずらーっと
並んでいる。テーブルでカードに講じている客。勝負に勝ったのか笑顔である

170 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 06:25
どんな種類のゲームなのか分からないがテーブルがいくつも一定の間隔を保ち並んで
いる。
中央から少し右のほうには、バカラの台が5つ並んでいるが、まだ、客はいない。私は
腕時計を見た。夜の7時ちょっと前である。これからが此処、カジノの賑わう時間帯
なのだろう。ちょと早すぎたのかもしれん。
煌びやかな空間の中を行ったり来たりしている従業員、ウェイター、ウェイトレス。
ちょっと偉そうなスーツ姿のマネージャーらしき人物。

そのなかでも、主役はディラーと呼ばれる人達である。この人達は各テーブルでカード
やルーレットの玉を操りつつ、客を楽しませつつ、
確実に客のサイフを軽くさせる。という離れ業をやってのける人達の事である。

私はギャンブルは一切やらない。が、あらかじめ予備知識として少し勉強してきた。
今回は雰囲気を楽しむ為に見物に来た。生まれて初めてのギャンブル場である。実に楽
しい。なにもかもが珍しい。
中央舞台の演奏者に曲をリクエストできるらしい。ものはためし、とつかつかと舞台に
歩いて行く。
私は、ヴァイオリン奏者に話かけた。彼女は笑顔で私の説明を聞く。しかし、言葉が通
じない。なにが悪いのか、発音か? くそっ、こうなったら歌ってやる。

171 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/05 06:27
映画 ボディーガードのテーマソングをホイットニーヒューストンばりに鼻歌で
メロディーを口ずさんだ。
彼女は笑顔で頷いた。やっと分かってもらえた。ほどなくして、会場に エンダー♪ 
オゥルウエイズラァヴユゥー♪  やった!大成功である♪♪♪

私は気を良くして会場内をぶらつく。ふと、天井に目がいった。天井のあちらこちらに
球を半分に切った様な物がある。

なんだろう。素材はプラッチック製で色は半透明で紺だ。

あやしぅいい。もしや、監視カメラ。360度回転式? うわ! よく見ると紺色の
お椀のなかで赤く光る点がある。
確信してしまったのですよ。 監視カメラじゃーーーーーーーーーー。

私はおもいっきり右手を出しピースしてやった。記念じゃ、記念。
このカメラは客を監視するというよりも、むしろディラーを監視しているのではないか
と思た。

172 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 17:25
ぷっはーー。起きた!

173 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 17:26
コーシーでも飲みまひょ。

174 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 17:37
最近、書きたい事があれやこれやと頭の中を駆け巡る。頭んなかごちゃごちゃ。
自分で整理できてない状態。

175 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 17:50
今、レス番132から貼ってる文章は過去に夢板でぽつらぽつら書いていた物。
去年の春先から暮れまで八ヶ月に渡って夢板に居たのだけど楽しみながら書いて
いたのを思い出す。

176 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 17:54
そんじゃーーー
        つづきでも貼るどーーーーーーー。
                    貼っていいかーーーーー
                               ダメ
                                  でも貼るどーーー。
                                

177 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 18:05
ぶらぶらとしていると客のなかには日本人がちらほらといる。脇には決まって美形のフィ
リピーナ。
 さまざまな人々がそれぞれの思いを抱いて此処に来ている。
 いろいろな想念渦巻くなかをぶらぶらと歩く。と一番奥に個室みたいになっている所が
ある。入り口にはVIPの表札が金文字で踊っている。
 おもろい場所を発見してしまった。私は躊躇なくドアを押す。なかは以外に広い。中央
にバカラの台が3つあり、周りには皮張りのソファーがきれいに並び、奥にバーカウンタ
ー中でウェイターがグラスを白い布で磨いている。
 彼の背中ごしには酒を置く棚。壁一面に高級ボトルが鎮座してる。
 各国のタバコが棚の一角を彩る。
 私はすぐさまバーカウンターの椅子に座り客となる。
「コーク プリーズ!」 
 はぁははは、私の英語が通じた。コーラが今、目の前にある。
 しまったーーーーーーーーーーーーーーーー。
 氷を抜き、と一言付け加えるのを忘れた。下痢する。絶対ピーピーウンチになる。あか
ん、ウェイターは笑顔でわたしの方を見ている。
 グラスのなかで氷が「カラン、カラン」イイ音です。
 飲みますよ! えぇ飲みます。 えぇえぇ。ウェイターさん。彼はきっといままでに何
人もの日本人を此処の氷で便所に送り込んだのだろう。
 私はグラスを口に運び 「マサラップ」と何事もない様な顔をして言った。彼は満足気
であった。彼は職人気質かもしれない。私は数時間後に彼の職人芸を便所のなかで
知る事であろう。
 とにかく、フィリピンの生水と氷を取らないようにしていた。この地にまだ体が順応し
ていないので、生水はあかん。

178 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 18:17
バカラのテーブルのひとつでゲームが始まっている。客はふたり。一人は日本人。隣に恋
人か奥さんか年の頃20代後半のフィリピーナ。日本人男性は年の頃50代前半。
 日本人男性の真向かいに座るもう一人の客は中国系の男性だ。どうやら、フィリピン在
住の華僑商人だと推測する。おそらく、フィリピン経済界の名のある人なんだろうな。なぜ
なら、このテーブルはビックテーブルと呼ばれているらしい。
 ビックテーブルとは一般台と違い、賭ける金額(レート)が大きく違う、とウェイター殿
から、さきほど聞きかじった。
 青、赤の丸いコイン型のチップを一般には現金とみたててやりとりするが、ここVIP
ルームにおいては、縦5cm横4cmくらいの赤い綺麗なほどよい厚みのある板がテーブ
ル上を行ったり来たりする。
 板一枚、日本円で5万円也。その板が一勝負で山の様に動く。ひと山何十枚だろ。

179 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 18:21
さきのウェイター殿は、私のコーラの飲みっぷりが気に入ったのかやたらと親切にしてく
れる。
 彼は「ユー ハングリー」とメニューを差し出す。おお。ちょうど、小腹すいてきたと
ころである。「イエス!」と私。
 メニュー 読めません。なにか高級そうな食い物の文字が踊っている。 文字では腹の
足しにもならんな〜。と考えていたら、「ユー ライク ハンバーガー」
 「イエス」
 ウェイター殿のおすすめらしい。素直に注文する。15分ほどして、ハンバーガーが届
いた。料理は厨房が別にありそこから運んでくる。
 うぁ! でかい。マックのよりパン自体が大きい。それと厚みも15cmはある。つけ
合わせはポテトフライ。皿とともにフォークとナイフである。食べてみる。うまーーい。
 我ながら、食べ物ばかりに話題がいってしまう。と思た。食べる事は大事ですから。と
言い訳。しかし、ここのハンバーガーは美味い。ボリューム満点だし。
 フォークとナイフは必要かも。初めての経験だ。ハンバーガーにフォークとナイフ。普
段、マクドナルドだしのぉ〜〜〜〜〜。
 バカラテーブルの雰囲気が熱くなっている。さきの日本人客が大きく勝っているみたい
だ。
 テーブルの中央にいる若い男性のディーラーは真剣な顔だ。反対に日本人客は、にこに
こ顔である。
 部屋の隅にいるスーツ姿のマネージャーの表情はひとつも変わらずになにか指示を出し
ている。

180 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 18:26
ディーラー交代である。う〜ん。おもろい。ひとり勝っている客に対して別のディーラー
投入。という事は、バカラというゲームは集中力の持続を要するゲームということかもし
れん。理屈から言うと、一人対複数のディーラーの図式が成り立つ。必然、人間一人の集
中力及び運など限界がある。複数のディーラーがローティションを組みゲームを作る。
 結論として勝てるはずがない。勝つ時はあるが、それはディーラーが客に気付かれない
よう勝たしてくれているのではと。仮に勝つが、次の日に負ける。
 などと、妄想たくましく観戦している。と ウェイター殿がトイレットペーパーなぞを
補充している模様である。ギュルギュル 不吉な音が私の腹部からしている。私はゲームに参
加するつもりはないので気楽に眺めているが。どうも、我が腹は戦闘状態に突入する模様
である。

181 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 18:36
トイレから戻ってみると、ディーラー交代のようである。次のディーラーはなんと女性で
あった。ディーラーの仕事はいかに客を楽しませるか。
 腕の良いディーラーとはどんなだろ。
 彼女はテーブルの雰囲気を壊すことなくゲームを再開させる。テーブルには程よい熱気
が漂っている。どこからか見物人が集まってきた。グラフに描けばそろそろ頂点にという
所かも。
 私は、隅にいるマネージャーの表情をうかがう。彼はあいかわらず、無表情である。

私は、タバコを吸おうと思い、ポケットに手をやる。最後の一本。ウェイター殿にタバコ
を注文する。銘柄をどうするか。タバコの棚に目をやり。とりあえず、ラークが見えたの
でそれにする。
 「ブルーパッケージ?」なんじゃそれは。彼は2つのラークを出した。彼いわく、帯封
がブルーのものと白のものがあり、ブルーはメイド イン USAだと言う。
 白はライセンス生産された、フイリピン製だと教えてくれた。
 私は、とりあえず、「ブルー プリーズ」である。と彼はブルーパッケージのラークと
もうひとつ 555という銘柄を私に渡す。
 555を指差し「プレゼント!」などと、のたまう。う〜ん。素直に「サンキュウー」
これは、どこの国のタバコじゃ と聞くと、ドイツじゃ と答えが返ってきた。
 ためしに、吸ってみた。う〜ん。なんだかわからん。煙が出れば一緒じゃ。 彼にはもう
一度 「サンキュ」と言った。
 しかし、彼の背後にある棚は魔法の棚かもしれん。世界各国の酒やタバコがあるらしい。
彼はひとつひとつの品物に対しての知識及び扱い方を心得ているのか?
 おそらく、カクテルなども作るのだろう。酒の名前を覚えるだけでも大変だろうな〜。

182 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 18:57
私は程好くカジノの雰囲気を楽しみ腕時計に目をやると夜中の2時になっていた。そろそ
ろホテルに戻ろうか?
 私はホールを抜け出口に向かい歩いた。
 ドアボーイがドアを押してくれたとたん、もぁ〜 とした空気が体を包む。目の前に
は車がぐるっと一回りできるロータリーがあり、日本で言うところの白タクが客待ちをし
ている。一台のタクシーに乗り込み。運転手のおっちゃんに行き先を告げた。
 「プリーズ ゴゥ トゥ メルセデスホテル」運転手は了解したらしく、頷き、車を走
らせた。私は目を車外の景色に移し セブの夜景を楽しんでいた。車は快調にセブの中心
街に向かっている。今、走っている景色には見覚えがある。
 この交差点は変則五差路になっていて角のビルの上に大きな看板がある。間違いなく昼
間走った道であった。が運転手は逆の方向にハンドルを切った。
 本来、左に曲がるのでは…… と頭の中で考えているうちに車はどんどん逆方向に走っ
ていくようである。
 あかん! 頭のなかで警報機が、ビーッビーッと鳴っている。とにかく、冷静になれ!
私はなにごともないような顔で平静を装っていたが、心臓はバクバクである。
 まず、運転手の目的は? 決まっている。銃を突きつけ「ホールドアップ」である。

183 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/06 19:06
車は夜の静寂のなかを滑るように走っている。
 道脇に規則正しく街路灯が並びアスファルトを白い光で照らしている。車内は私と運転
手二人きりである。私は外の景色を目では追っているが頭のなかで最悪の事態を想定して
いた。
 道は街路灯がなくなり、うら寂しい雰囲気になってきた。そうこうするうちに、左手の
方向に車のヘッドライトのようなオレンジ色の光が見える。がそのオレンジ色の光はぜん
ぜん動かない。
 はっと! 気づいた。あの光は船だ! 漁船かも。という事は海に向かっているのだ。
前方に大きな橋が見える。
 「わかった!」見覚えがある橋でだった。この橋を渡ったらセブの空港にいくはずであ
る。空港の周りは人家もなにもない。                  
 本気で危ない!
 私は運転手を刺激しないように「プーリズ ターン」と、どうか、車の向きを変えてく
れとたのんだ。 
 運転手は、とぼけてメルセデスホテルはこの先にある。と答えた。
 そんなはずはない。私は心のなかで言い。さらに運転手に戻ってくれと頼む。
ただで向きを変えろとは言わない。あなたに運賃とは別にプラスアルファで特別チップを
あげると交渉した。
 私は運転手の顔を真剣に見つめ答えを待った。
彼の顔をみるかぎり決して悪人顔には見えない。 たしかに生活に疲れなにか思いつめた
感じを運転手から受けるが……
 一瞬、彼の顔に迷いが浮かんだ。

184 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:29






185 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:32
ある地方に悪どく稼ぐ社長がいました。彼は幼少の頃は貧しい家に育ちました。
幼心にくやしい思いをしてきたのでしょう。
 彼の父親は厳格な性格で地方公務員として一生を終えています。母親はそんな父親を影
となく支え尽くす一昔前の日本の母親という感じの人ですが父親が亡くなって三年後に後
を追うように他界しております。
 彼は大変頭が切れ正義感の強い子供でした。腕力もあり弱い者いじめが大嫌いでした。

そんな彼は学校ではクラスのガキ大将として小学校、中学校時代を過ごしました。
 しかし、彼は正義感をもつ反面、なかなかの暴れん坊であり度々、警察のやっかいにも
なり、両親はほとほと困り悩んだあげく、中学校を卒業後すぐにある県に一家を張る、や
くざの親分に預けることになりました。
 彼はやくざの親分のもとで部屋住みとして、やくざの道を歩むことなりました。部屋住
みとは親分の世話をさせて頂きながら渡世一般の礼儀作法を身に付ける修行のことです。

数年が経ち、彼はその道に染まると同時に、やくざとしての生き方が身に染みついてしま
いました。若い頃に経験として身につけてしまった事はなかなか抜けません。
 それから、さらに数年がたち彼も結婚をし子供が出来ました。彼は悩みました、このま
ま、やくざの世界に身を置くか、それとも、足を洗い、まっとうに生きるか。

ある日、彼は親分の家に行き「どうか、かたぎにさせてください」と真剣な顔でお願いを
しました。彼の親分はこころの広い人物で、彼は晴れて、かたぎになる事ができました。

  彼はかたぎになったはいいが、収入のあてがありません。とりあえず、夜の街のツテ
を頼り空き店舗を借りることができスナックを始めました。彼はスナックの仕事でなんと
か食べていくことができるようになりました。

186 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:34
10年後

彼は一生懸命働いたおかげで商売は順調にいき、今はクラブ、パブ等を6店舗経営するよ
うになっていました。各店舗は夜8時開店です。開店と同時にお客様が入ってきます。
「イラッシャイマセー」華やかなドレスに身を包み笑顔で迎えてくれるフィリピーナ達。
彼女達はテーブルからテーブルへと蝶のように舞いお酒をグラスに注いでいます。
 テーブルのあちらこちらから笑い声が絶えません。
 「リサ、オキャクサン キタヨ」と後ろから店長に肩をたたかれた。
 店長は厨房の方に歩いていく。リサは目線をドアに移した。
 「イラッシャイマセー」「キョウハ、トモダチイッショネ、メズラシイデスネ」 
 リサはそう言って牽制球を投げる。ふたりをテーブルに案内して、おしぼりを手渡す。
リサはこのお店で働くようになってまだ二週間である。最近よくお店に足を運んでくれる
このお客さんはふだん一人でくるが、今日は始めてふたりできた。しかも、お連れは女性
である。

187 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:39
彼はフィリピンクラブを経営するようになり毎月決まって一週間から二週間位のペースで
フィリピンに行くようになった。目的は、お店に入れるフィリピーナのオーディションで
ある。6店舗だとそうとう数のフィリピーナが必要になる。
 彼女達はダンサー、シンガーという肩書きで三ヶ月間のビザで日本に入国しさらに三ヶ
月間の延長申請を行い、計、半年間で次のフィリピーナとバトンタッチである。
 いっぺんにフィリピーナ達が帰国しないよう調整しなければならない。

月に一店舗で1人〜2人でも6店舗となると6〜12人である。このローティションが売
り上げに響く。したがって、彼の仕事はフィリピーナの補充の為、日本とフィリピンを往
復しているのである。
 もっとも、事務手続きは日本側プロダクションと現地プロダクションにまかせ彼はもっ
ぱら日本に連れてくる女の子の選定である。
 二ヶ月前のある日、彼はいつものようにフィリピンに飛んだ。
 セブ国際空港に一台のワゴン車が向かえにくる。彼は当然のようにその車の助手席に乗
り込む。後部座席に彼のお店の店長が乗り込む。彼はオーディションには店長の意見を取
り入れることにしているのでかならずひとり従業員をフィリビンに連れてくる。
 運転席には精悍な顔つきのフィリピン男性がハンドルをにぎっている。彼の現地セブ島
での愛人の弟である。車はその愛人宅に向かっている。
 車は愛人宅の門をくぐりガレジーに停められた。店長は後部座席のドアから荷物を家の
中に運び込んでいる。
 家の敷地はかなり広く表門の前にガードマンが24時間立っている。敷地全体に芝生が
敷き詰められており中央にプールがある。
 店長は荷物を運び込む途中、ふとプールに目がいった。プールの水面には、まわりのヤ
シの木が映り込んでいた。

188 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:44
次の日、朝からプロダクション回りである。ひとつのプロダクションで女の子を50人〜
100人見てまわる。
 プロダクションをいくつもまわり彼は慎重に人選をしていく。200人〜300人見て
もその中から選ばれるのはひとり位の割合である。
 あるプロダクションで彼は店長に「お前ひとり選べ」と言った。 ズラーッとフィリピ
ーナの目がこちらに注がれている。
 オーディション会場で店長は、57番の子に質問をした。「プリーズ スマイル」笑顔
を見せてください。店長は57番の子の瞳をみていたのである。吸い込まれそうな瞳をし
ている。と店長は思った。

189 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:48
別の部屋で彼と店長は待っていた。今回このプロで一人決まった。部屋のドアノブが回る
音がした。ガチァ ドアが開く、フィリピーナの胸の下のプラステック板には57の数字
が見える。
 「あなたに決定しました」と現地通訳の人が彼女に伝える。 
 「おなまえは?」「リサ デス」

彼は一通りその日の仕事を終え、店長と愛人宅に帰った。フィリピンの午後の日差しも和
らぎそよそよと風も吹いている。彼はプールサイドに椅子を持ってこさせメイドに爪を切
ってもらっている。「おい、お前も爪 やってもらうか?」彼は店長に向かって聞いた。
 「いえ、私は結構です」と店長は答える「うん、そうか」
 「50数年前、この地で日本人は戦争してたんだな」彼は誰ともなく独り言のように言
った。ふだんの彼はこのようなことを言う男ではないので店長はちょっとびっくりする思
いで聴いていた。
 プールの水面が風でキラキラ光っている様子をじっと店長は見つめている。
 「兵隊さんは日本に帰りたかったろうな」彼は目線を空に向け
 「このヤシの木を見ながら死んでいったんだろな」
 「日本といえば桜の木だが、こっちは桜のかわりにヤシの木だな」

フィリピンの蒼い空にヤシの木が風に揺れていた。

190 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:50






191 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 15:54
私はベットから足を床に滑るように降ろし左手で毛布をめくり体を斜めにし起き上がる。
床のひんやりした感触が足裏に伝わり、朦朧とした頭に刺激を与える。
 そのまま、シャワーを浴びる為、バスルームに向かう。お湯の蛇口をひねり、湯気が出
てくるまでの間しばらく、水の流れをボーッと眺めていた。   
 昨夜の事が頭のなかに蘇る

私は運転手の顔を真剣に見つめ答えを待った。
 彼の顔をみるかぎり決して悪人顔には見えない。 たしかに生活に疲れなにか思いつめ
た感じを運転手から受けるが……
 一瞬、彼の顔に迷いが浮かんだ。
私はこれは、なんとかなる。チャンスは今しかない。お金はきちんと彼にあげようと心の
なかで誓い。交渉した。
 彼は無言で車をUターンさせた。ほどなくして見覚えのある変則五差路の大きな看板が
目に入ってきた。「ふーっ」小さくため息をした。
 タクシーは無事メルセデスホテル前の着き、私は運転手に約束したとおり運賃プラス特
別チップを支払った。
 それから、ロビーで部屋のキーをもらい、部屋に戻るとドアのロックをしシャワーも浴
びずにベットに倒れ込むようにもぐりこんだ。深夜の3時をすぎていたような気がする。

私は熱いシャワーを頭から一気に浴びる。体の細胞が少しづつ目を覚ましていくのが感じ
られる。

192 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 16:09
私はシャワーを終え手早く着替え荷物をまとめた。 カチッとドアノブに手をかけ、私は
後手でドアを閉める。ゆっくり階段を降りロビーの受付に向かう。
 ロビーのガラス越しに道をはさんでサリサリストアが見える。私はキーを返しチェツク
アウトをしながら頭のなかではセブンアップを飲むぞと考えていた。そのまま、ホテルを
出て朝の慌しさが残る通りを横切りまっすぐにサリサリストアに向かう。
 まだ、眠そうな顔で店の掃除を始めていた、おばちゃんにセブンアップを注文する。私
は店先に置いてある木製の椅子に腰掛け190mmリットルビンをラッパ飲みする。
 ジュワーと炭酸が喉に溢れる感覚。「ふっーー」通りをボーッと眺めていると自分が、
朝の喧騒とこの地に住む人々の日常から離れた所にいると実感する。
 そう、私はただの旅人なのである。この地に住む人には日常があり大地に根を張って生
きているわけである。今の私は言ってみれば根なし草というところであろう。
 そんな事を考えていたらいつのまにか、セブンアップを飲み干してしまった。ポケット
に手を突っ込みくしゃくしゃのラークを1本取り出し火をつける。 
 「おばちゃん、タバコある?」「ああ、あるよ 何本だい?」どうやら、1本からバラ
売りをしているらしい。日本では考えられない。
 ガラスケースの上に竹で編んだ入れ物がありその中に100円ライターがある。
 客は1本2本とタバコを購入しそのライターで火を付けていくのだろう。
 「マロボロを3本ちょうだい」「ライターそこにあるからね」おばちゃんは笑顔で指差
す。「サンキュー」笑顔で私は答えた。
 何台ものジプニーが通りを行きかう、真っ黒い排気ガスの向こうに青い空と白い雲が揺
れていた。

193 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 16:23
セブの空港内はいかにも、いなかの空港然としている。まるで日本の田舎の駅のような雰
囲気である。私はマニラ行きのチケットを購入した。やはり、ひとりでセブ島をうろつき
回る事に危険を感じたのである。とっとと逃げるに限るとの決断だ。
 チェック インを済ませ、いざ飛行機に乗り込むのはいいが空港の滑走路まで歩いてい
けとの指示だ。滑走路にはジャンボよりひとまわり小さいエアバスという機種が鎮座して
いる。
 機体のまんなかあたりからタラップが降りておりそこから乗り込めとのことである。
 「う〜ん おもろい セブ空港」遠くのほうには、なにやら知らないが大きなトラック
などが見える。

194 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 16:27
ほどなくして機体はふわっと宙に浮き私の体はシートに押し付けられるような感覚のGが
かかる。
 機内の小さな窓から外を覗く蒼い海が眼下に展開。白い雲をが視界を遮る。どうやら雲
のなかに入ったようだ。
 キィーーン ゴーーーォーーー マニラ着。  
カチャとシートベルトをはずす。「う〜〜ん」両手を上にのばし伸びをする。 
 「よく寝た!」うわはは、あっという間にマニラだった。

195 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 16:29
「やっぱりマニラの空港はでかいな」「それはそうと電話電話と」私は広いロビーを見渡
した。「おっ!あった」
 つかつかと公衆電話まで歩いていき受話器を上げる。番号が書いてある紙切れを睨みな
がら ピピパポピパパポ「ツー ツー ツー ツー……」「ハロー」よっしゃ! 
つながった。
 「ハロー マイネイム イズ ****** アイ ウォント トーク プリーズリサ」 
 「リサ?」
 「イエス プリーズ リサ」「オーケー ジャストモォウメント」
 暫くして電話口にリサがでた。「もしもし、リサです」

196 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 16:30
空港建物の外に一歩出るとそこは都会の喧騒渦巻く混沌の街。
ピーーーッ グゥオーーー 車のクラクション 何処からか聞こえる大きな音。ラジオか
ら流れる音楽。
 右手にバックを持ち壁に背をもたせ私はリサを待っていた。黄色にボディを塗装したタ
クシーの窓から見覚えのある顔がこちらに手を振っている。
タクシーは私の前に停まった。 
 「元気そうですね」リサが笑顔で声をかけてくれる。リサの後ろにふたりの妹達が笑顔
で立っている。私は無言で頷く。
 リサ達の顔を見て、ほっとした気持ち ありがたい気持ち、いろいろな感情が入り混じ
り私は泣きそうな顔をしていたと思う。



197 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 16:42
コーシー飲むじょ……

198 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 16:56
せんべいとコーシーうまうま。

199 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 17:42
                   「音の無い世界」

深夜の国道、フロントガラスにぶっかってくる、白い雪が渦を巻いて俺を誘う。
 運転席のある箱からの視界は前方、助手席側のドア窓、ハンドルを握る体の右側と三方
向の窓から降りしきる雪が音を奪い去り、音の無い世界を俺に見せている。
 関越自動車道を降り、冬の新潟県、深夜の一本道。
 白い渦が誘うように俺を異界に引っぱっていく……
 不思議な感覚が俺の身体に入るのがわかる。ひとりぼっち…… 
 オレンジ色のヘッドライトに照らされた空間だけを見つめ、孤独の中を走る。俺は十五
分間だけ眠るつもりでトラックを路肩に寄せた。たとえ、十分、十五分でも睡眠を取る事
によって頭がシャキンとする。その後二時間は運転を続けることが出来る。これも、先輩
からさんざ教わった事だ。
 ハンドルにうつ伏せになる。俺はすぐに夢の中へと落ちていった。

「長距離やりぁ、稼げるけど家にぁ週一回帰れればいいほうだかんな」俺はそんな会話を
事務所の端で聞いていて長距離ドライバーに憧れた。
 皆、会社に帰ってくるとトラックを洗車したり事務所でぐだぐだ遊んでいた。俺は楽し
そうにしているそんな彼らが羨ましかった。
 俺も長距離を走るようになってからというもの、会社に帰って来て心から皆と会話を楽
しめるようになった。なぜなら、走る箱の中では嫌というほど自分と対話する時間があっ
た。前方の信号機を見つめているつもりがついつい自分を見つめてしまう。
 誰かが言った「ラジオが…友達…」

200 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 17:46
北関東の農協や畑から直にホウレンソウや泥ねぎを昼間積み込み、そのまま夕方出発。
 夜中一生懸命走る。明け方五時までに秋田市や大阪やとセリに間に合うように現着。
 泥のような体に鞭打ち荷を降ろし、二〜三時間、仮眠する。朝八時、ベニヤ工場やら傘
工場やらで帰り荷を積み込み。
 「明日の朝一番でお願いしますよ」と言われながら伝票を受け取る。そのまま東京まで
ひと走り。三日後の昼間、会社に戻り、次に戻るのも三日後。
 「さぁ一日休みだ」と久しぶりに顔を合わせる運転手仲間。ニヤニヤとお互い笑顔。
 ただ、人恋しいのだ。そんだけ。

トントン! フロントガラスを叩く音で目が覚めた。
 普通車よりも、ひとまわり大きなハンドルから上半身を起こし慌てて周りを見回す。
 津々と降り積もる雪がワイパーの上に白い段を作っていた。
 「うっ寒みい」暖房のファンが追いつかず冷気がドアの下を這っている。ポケットから
残り少ないタバコの箱を手に取り一本抜いて火を点けた。「ふっー」
 時間を確認しようと思い計器盤に目をやる。タコメーターのスピード盤に二重に数字が
刻んである。そのダイバーウォッチみたいな円盤の内側に一から十二の区切りがアナログ
時計の役割を果たしていた。長い針が、ちょうど十五分経った事を知らせている。
 俺はからからに乾いた喉に煙が刺さると感じながらも意識は別の事を考えていた。
 「フロントガラスは誰が叩いたんだ?」この世のものではない者。そんな気がした。溜
息と共に煙を吐く。「ふっーー」タバコを灰皿に押し潰した。ぶるっと体が震る。
 「さて行くか」
 俺は靴底でクラッチペダルを踏み、ゆっくりギャーを入れた。タイヤが雪を踏むミシッ
ミシッという音を聞き古い車体が走りはじめる。

201 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/07 17:51
フロントガラスを音もなく叩く雪…… 
 知らず知らずのうちにアクセルを踏み込んでいた。はやくこの異界から逃げ出したい。

白い雪はあいかわらず渦を巻いて俺を誘っていた。遠くに二十四時間営業のガソリン
スタンドの白い明かりが揺れている。
 俺は寂しさに耐えかね、ラジオのスイッチを押した。



202 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/15 01:15
           「逃避行」

夜中の部屋 ハッと 目が覚め隣にはおまえの
寝息 テレビにはNHKの風景画 流れる画面に
切なさと不安が混じる午前四時 

逃避行 刹那と希望の重い旅 そっとタバコに火を
つける
はやく夜が明けてくれ 願うように画面を見つめる
I love you と 寝顔に 問いかける一年目


見知らぬ土地 二人で借りたアパート 輝いてた部屋
こたつの隣にはおまえの笑顔 流れる会話に
楽しさと不安が混じる午後の二時

逃避行 儚い線香花火の旅 そっとタバコに火を
つける 
はやく夜が訪れてくれ 願うようにベットを見つめる
I need you と 笑顔に 問いかける二年目


別れの交差点 見つめる先には それぞれの辿る道
ありがとうの隣におまえの声 セピアの思い出に
なみだと感謝が混じる過去の四時

逃避行 刹那と希望の重い旅 そっと写真に火を
つける
はやく夜が明けてくれ 願うように写真見つめる
I like you と 思い出に 問いかける三年目

203 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/15 01:22
                     「雪肌精」

 叔父さんがふらりと僕の事務所にやって来た。この叔父さんは決まって何の前触れも
なく、僕の前に現れて小一時間ほど淡々と物を語る。ガラッと威勢よく引き戸が開けら
れ「おい! 誰かいるか」
「御苦労様です」竜の絵柄がバックプリントされたジャンバーを羽織った若者が両の手
をジーンズの脇にピタッと付け直立不動したとおもいきや深くお辞儀をする。
 その若者の姿を僕は事務椅子に腰掛け眺め、笑いそうになってしまった。堪えるがど
うしても顔に出てしまう。若者の初々しい仕草に過去の自分を重ねるのかもしれない。
僕は笑い顔を誤魔化す為、事務椅子から腰をあげ叔父さんの方に歩きながら革張りのソ
ファーに促す。「どうも叔父さん お久しぶりです」
 叔父さんは両足を肩幅より少し広めに拡げ深々とソファーに身を沈める。僕はテーブ
ルを挟み相向かいに、ちょこんと座る。
 「哲ちゃん最近、朝晩冷えるのぉ」「ええ、やっと冬らしくなりましたね去年の夏は
暑かったり寒かったりとまったく可笑しな天気だったですからね」
 「そうだいのぉ冬はキリッと寒くなければいかんな」ガチャガチャと奥の方で茶の支
度をする音が聞こえてくる。おそらく若者はタイミングを計っているのだろう。僕はこ
ころの中で、今、茶を出しな、とわざと叔父さんへの相槌を遅らせていた。
 「失礼します」若者の緊張感がブルブルと手から茶に波紋と伝わる。
 「わはははっ哲ちゃんとこの新入りか」

204 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/15 01:25
 「ええ、僕の事務所でしばらく預かる事になったんですよ」
 「哲ちゃんの商売教えるのかのぉ」「はい、そのつもりでいます」僕はキッパリと言
い切った。「パチ屋も不景気で大変だのぉ」
 「僕らの商売は水商売ですからね」「そうだいのぉ… それはそうと哲ちゃ… 」
 「身体の怪我は治るがバカは治らんのぉ、わはははっ」豪快に叔父さんは笑う。
 「うちの真治、知っとるだろ」
 「ええ、知ってますよ」「真治のバカ…… また、パクられちまってのぉ……」寂し
そうな横顔で言う。

僕と叔父さんは世間話を小一時間した後、「じゃそろそろ、行ってみるかの 邪魔した
のぉ」といつものごとく帰っていった。

 その夜、僕と若者は頭のてっぺんから足の先までカラスのごとく黒装束で固めた。僕
らの仕事は段取り7分実行3とよく言われる。この道の大先輩達が理論を体系づけした
本が裏世界のベストセラーとしてある。もちろん僕もその書籍には目を通している。と
いうよりも僕が作った本なのだ。ふたりは闇夜に紛れパチンコ屋の店内に侵入。めざす
は雪肌精という機種、ガラスの枠扉を開け仕事師の腕を振るうだけである。

205 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/16 22:42
僕らは綺麗に裏の仕事をやり終えた。僕の睨んだ通り若者の筋は良い、これなら数年
で僕の代わりが勤まると思い僕は上機嫌だった。
 「明日の昼すぎ三時にお客さんが来るはずだから」
 「どっちの事務所にですか?」
 「うん、裏道出版のほうに来る。お客さんがみえたらソファーに案内して茶を出してくれ
るか、そうだ、そうだ、明治屋のショートケーキも用意して置いてくれるか」
 僕は帰りの車中で若者にそう指示を出し停車している車の助手席のドアを開け足をア
スファルトに降ろす。若者は、一瞬しまったという顔をしてすぐに外に飛び出し助手席側
に回り込みドアに手を添えた。その素早い身のこなし方を見て、やはりこの若者は筋が
良い、とあらためて感じた。
 「いいよ、いいよ、そんな堅苦しくしなくも。おつかれ、明治屋のケーキ忘れんな頼んだ
 ど」
 「はい、分かりました」 若者は元気の良い返事をした。
 「おいおい、夜中だぞ、あんまりでっけい声だすな」
 僕は若者の頭に軽くげんこつを一発落とした。
 「はい、すいませんでした」 若者は少し声を落としてそう言ったが、反省している様子
はてんで無い。僕はそれでいいと思った。
 「おう、気をつけて帰れよ」 と僕は言い若者に背を向け歩き始めた。
 背後で車が発進する音を聞きながら、僕はマンションを見上げる。マンションの屋上と
夜空の境目を見上げ表の世界へと気持ちを切り替える。

206 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/19 05:42


 車を大型スーパーの駐車場に滑り込ませる。百台は停められるかと思わ
れる、広々とした白線の引いてあるアスファルトの海に車を乗り入れ、隅の
方に停めた。ちょうどお昼どきという事もあり食料品をメインに扱っている
スーパーの駐車場は、建物の入り口付近にお客の車が集中して停められて
おり隅の方はガラガラに空いていた。
僕は車から降りドアのロックして駐車場に面している通りに向かい歩いて
行く。
 幅が六間もある通りを挟んで相向かいには、僕の城であるリサイクルシ
ョップがある。店舗と事務所が二つ。
 その倉庫みたいな造りで屋根の高い建物の中に、株式会社裏道出版の
事務所もある。
黄色い大きな看板を見ながら、歩道の白いガードレールの内側で車の流
れが途切れるのを待っていた。
 その大きな看板には黄色地に赤文字で、“なんでも売ります買います”と
道行くドライバーの目に訴えかけるように掲げられている。
 僕はこの場所にリサイクルショップを開店して正解だったと思った。
 今からちょうど、十年前だった当時リサイクルショップは全国であちらこち
らに出来て流行の兆しだった。
 僕の店も時流に乗る事が出来、なんとか細々とやっている。僕ひとりの力
など、たいした事は無い。ただ、人に恵まれたことは確かだと思う。
 表の仕事も…… 裏の仕事も…… 人がすべてだとしみじみ感じる。

207 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/19 05:49
僕は車の流れが途切れる頃あいを捕まえて、すばやく通りを渡った。
「おはようごさいます」 店長の広田が声をかけてきた。
「おはよう、どうだい売れてるかい?」 雑多な商品が置かれている狭い
店内をふたりで話ながらリサイクルショップの事務所に入る。
「売れてますよ、なんたって社員が優秀ですから。売れているもなにも社
長は毎日売り上げチェックしてるじゃないですか。一番良く知ってるのは社
長でしょう」 広田は笑いながら言う。
僕はとぼけて、「コーヒー煎れてくれコーヒー」と言いながら事務椅子に腰
掛ける。ふと、冷蔵庫の上を見ると、明治屋のケーキ箱が載っている。若者
が今朝、差し入れた物だなと思った。
 「おい、広田、おまえ白髪が目立つようになったなぁ、若白髪だな。幾つに
なった?」
 「三十二ですよ。こんな狭い所に十年も居れば白髪も生えてきまっせ」
 広田の言うとおり五坪の事務所は狭かった。スチィールの事務机が三つ
あり、みな一様に机の上にはパソコンのモニターが置かれ。残りのスペー
スにはカタログやら書類の束が散乱していた。その他に小型冷蔵庫やら
流し台やら、コピー機やらとごちゃごちゃしている。
 「狭いのは関係ないんじゃないか、それにしても、十年経つかぁ……」
コーヒーメーカーから香ばしい匂いが立っている。広田はカップを二つ手に
持ちながら僕に言った。
 「今朝、社長が新しく預かった若い衆からケーキの差し入れありましたよ」
 「うん、僕が買っておくように頼んでおいたんだ、気を利かしてこっちにも
差し入れたんだな」

208 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/19 05:57
 「それはそうと、社長。株式会社裏道出版にお客さんが来るという事は、仕
事ですか?」
 「まぁ、そういう事になるな。また、書いてもらう事になると思うが頼むど。お
まえの書く本は評判いいからなぁ。前回書いてもらったやつなんだっけ……
あぁそうだ、『こころを鎮めてヤマを踏む』 だったな、売り上げ順調に伸ばし
てるようだど」 
 広田の他にも、ゴーストライターの先生は二〜三人、常時抱えているのだが、
その中でも、なぜか広田が書く本は売り上げが良かった。

209 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/20 06:41
 そもそも、裏道出版という会社は勢いで作ってしまった会社なのである。
目の前にいる広田が、いなければこんな仕事はしなかったと思う。

 あれは、そう今から十年前の、ある夏の暑い日だった。
その朝、僕は店のシャッターを上に押しあげているところだった。背後から
透き通った声を掛けられ、振り向くと学生か、と思われる、ひょろっとした青
年が立っていた。
 白のTシャツにジィーンズという格好で手には、僕の店で作ったチラシが
握られていた。
 「すいません。このチラシにあるアルバイト募集っての見て来たのですが」
幼い顔の青年が言う。
 「ああ、応募の方、あれっ、事前に電話か、なにか連絡頂いたかな?」
 「いえ、いきなり此処に来ました。すいません」
 と青年は言い淀んだきり、俯いてしまった。
 「うん、ここで話もなんだから中へどうぞ」
 僕は半分まで上げたシャッターを全てあげきり、暗い倉庫のような店舗に
朝の光を入れた。
 入り口脇の壁にあるスィッチを押す。高い天井に吊り下げられた照明が白
い熱を持って、ゆっくりと店舗内を照らしていく。
 「どうぞ、事務所の方へ」
 僕は店舗内から、入り口の外で待っていた青年に声を掛けた。

210 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/20 07:04
 事務所内の壁は真新しい白いクロスが貼られ、スティール机には広々とし
たスペースがあり、なんだか殺風景という印象を与えていた。
 僕は事務椅子を青年に勧めた。僕もスティール机を間に挟み青年の相向
かいに座る。
 「履歴書をもって来られましたか?」
 「いえ、なにも持ってきていないのです。今朝、新聞折込に入っていた、こ
のチラシを見て矢も立てもいられずに、家を飛び出し自転車にまたがって此
処に来てしまいました」
 「なんで、そんなに急ぐ必要があったの?」
 「はい、自分でもよく分からないのですが、このチャンスを逃したくなかった
のです。冷静になって考えるとおかしいですね」 
 そう青年は言い、頭を掻いた。この青年から受ける印象は悪くはない。案
外、一本気なのかもしれないなと思った。僕は自分の直感を信じて、いまま
で生きてきた。
 「うん、まあ、履歴書なんて後で書いてもらえば良いことなんですが、仕事
の内容はチラシの募集要項で、だいたい分かっていると思いますが……」
 ここで、僕は話を一旦途切った。目の前にいる青年を試してみよう、返答い
かんで、採用、不採用を決めようと思ったのだ。

 「社長、なにボケッとしてるんですか? 俺の話、聞いてます?」 ここで、
僕の思考は中断された。
 「十年経つと、人っうのは変るもんだな……」 僕は、ぼそっと呟いた。
 「なに、言ってるんですか。コーヒー冷めますよ、社長!」
 僕の直感も、たいした事はないのだと改めて思った。

211 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/22 06:23
 「んっ、ケーキの話だっけか?」
 広田は、まるで話にならないという様に両手をひろげ、手のひらを上にす
る。口をへの字に結び、二〜三秒のあいだ無言の後、僕に宣告を下した。
 「社長、ボッーとするなら、そこに居てもらっちゃあ邪魔です。し・ゃ・ち・ょ・う
は窓際の陽が当たる指定席で、思う存分、ボッーとして下さい」
 僕は、すごすごと窓際へキャスター付きの椅子ごと移動した。
 スーツの右ポケットを探り、ショートホープの小さな箱を取り出し、指の先で、
茶色いフィルターの頭を一本摘み出す。
 僕は灰色の机に片肘を突き、左手の人差し指と中指のあいだに挟んだ煙
草に火を点ける。煙草の先から昇る、紫煙の粒子がまるで雲のように室内を
漂う。
 窓からの強い光が、粒子の渦をより一層、際立てて見せている。
 「広田、なんでお前を採用したか分かるか?」
 広田は顔を一瞬、僕の方に向け、興味ありませんよと言う顔をしてパソコン
モニターへと視線を戻した。しかし、耳は僕の方に向いているのを、僕は知っ
ている。
 「直感だよ。直感」
 広田はマウスを動かしながら、切り返しの言葉を考えているようだった。
 「社長、俺がなんで此処に十年もいるが分かります? 社長についてれば
食いっぱぐれが無いと思ったからっす。直感っすよ。直感」
 型通りの切り返しをする。まったくもって、へらず口の止まらない奴である。
その一方で、履歴書も持たずに面接に来るという型破りな一面も併せ持って
いるからこそ、僕は採用したのかもしれない。

212 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/23 06:24
 「今、何時だ?」
 広田はモニターの右下にある数字を確認し、めんどくさそうに答えた。
 「ピーエム、一時です。社長、腕時計してるんっすから、俺に聞かなくても
いいでしょう。ちったぁ、俺の仕事を手伝うとか、俺の仕事を手伝うふりをする
とか、しないとかっう考えはないんですか?」
 「ない」
 僕は即答した。
 「もう、一時か。ちょっくら、出掛けて来る。三時には戻ってくるよ」
 僕は、これと言って用事がある分けではないが、気分転換する為に事務所
を出た。外の空気を吸い込む。
 平和な冬の日差しが倉庫全体を包んでいる。店舗敷地内のアスファルトに、
倒産した居酒屋やら、レストランから引き上げられた、業務用ステンレスの流
し台。スティールのロッカー達が所狭しと並らべられている。
 これらを全て取り除くと、本来なら三十坪ほどのアスファルトで出来た、店舗
駐車場が出現するはずだったが、僕はここに商品を並べた。
 当然、来店するお客様の駐車場スペースが無くなってしまう。
 よって、道を挟んだ相向かいの大型スーパーの駐車場に、自然とお客様は
車を停めてくれるようになった。

僕は六間道路を流れる車が、途切れるのを見計らって、すばやく道を渡った。


213 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/24 06:42


 僕は店から車を走らせた。右前方に道路より少し小高い土地があり、コン
クリートで出来た防護壁の上に、いつも見慣れた森が見えてくる。
 もこもこ、と天を突き上げる木々の生命力が僕を惹きつける。
 僕は暇な時間を見つけては、神社巡りをするのが好きなのである。
 といっても店は広田任せなので、いつも暇なのではあるが。
 だから、ほぼ毎日、神社に来る事になる。この神社の他に、近所に点在す
る、数箇所の神社は僕のお気に入りでもある。
 その日の気分によって今日はあっち、明日はこっち、と巡っていた。
 本線からウィンカーを右に出し、右折する。細い脇道を慎重にハンドルを握
り車体を進める。
 左手には鬱蒼と茂る、ヒマラヤスギや赤松の大木が森となり視界をさえぎっ
ている。
 夏の暑い時分には、この狭い路地にタクシーとか外回りの白いバンとかが、
涼を求め停まっているのをよく見かけた。しかし、今は冬の時期とあって閑散
としている。
 暫く走ると、いきなり森が途切れ、視界が広がり、神社の境内に続く小道が
現れる。
 僕は四角い白線の中に車を停め、駐車場に降り立つ。人影は無い。まるで
神社の一角だけ別の空間と思うほど、空気の流れが違う。
 落ち葉を踏む、ガサッガサッという音を聞きながら、小道を歩く。

214 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/24 06:47
 四方八方から威厳に満ちた大木達の気を肌で感じる。赤松の太い幹にそっ
と手を触れる。がさがさとした表皮に耳を近づけ、赤茶けた土から水を吸い上
げる音を聞く。
 普通の人は悪党に神社の組み合わせなんて、と思うかもしれない。しかし、
悪党から言わせてもらえば、悪党だからこそ、神社とか神棚とか目に見えない
大きな力に頼るのだ。今も僕はこの大木に頼っている。

215 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/27 14:17
 僕は暫く、赤松の冷たい感触を味わい、その太い幹から離れた。周囲に
誰もいない事を確かめる。やはり、誰かに見られると恥ずかしいものがある
のだ。
 小道は鎮守の森側からも入れるようにと、正面入り口とは別に造られたも
のだった。普段はあまり人影を見る事もない。そんなところも僕のお気に入
りのひとつだ。
 僕は境内へと歩を進める。
 この神社は、あと一ヶ月もすると参道の両脇の桜並木が、それは見事な
花を咲かせ、人々の目を楽しませる。
 毎年、桜のシーズンになると、一週間から十日間くらい、桜並木の枝下に
ちょうちんが、ぶら提げられ一晩中、明かりが灯される。
 やはり、神社に桜は似合う。そんな事を考えながら歩いていると、いつの
間にか境内に足を踏み入れていた。

216 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/27 14:20
 境内の土には竹ぼうきの跡が残っていた。おそらく今朝、近所の人が掃き
清めたのだろう。僕はその、人の好意でなされたであろう掃除の波紋を、僕
の足跡で汚さぬように慎重に歩いた。
 本堂の数メートル手前に来ると、石で造られた背の高い台が参道の両脇に
左右ひとつづつあり、その上に二匹の狛犬が、ちょこんと座り、僕を見下ろす。
 僕は狛犬が守る、境界線の内側には決して入らない。もちろん、賽銭など
一度も投げた事はない。
 何故に? と問われれば、僕みたいな穢れた者が入るべきではないという
考えが、心の隅にあるのかもしれない。賽銭については、ただ、投げることが
面倒だからだ。
 ぽん、と拍手をひとつ打ち、目を瞑り手を合わせる。
 偶然の中に、必然が散りばめられている。ただ、人はそれに気付かない
だけなのかものしれない。ふと、そんな考えが頭の中を過ぎった。僕は目を
開け、腕時計の針を見る。
 さて、三時まで時間を潰さなきゃなぁ。

217 :寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/03/27 14:26
 境内の隅にある、どっしりとした大理石造りの平らなベンチに座った。冷た
い感触が尻に刺さる。僕は煙草を取り出し、一服点けた。煙を清潔な空気と
いっしょに、肺に送り込む。
 口の端で煙草のフィルターを銜え、空気を吸い込むと同時に、煙草の先が
赤く焼け灰が伸びていく。
 左のポケットを探り、手のひらに載る大きさの携帯式灰皿を指の先で確認
し取り出す。丸い蓋を開け、その中に灰を落とした。
 僕は仕事の段取りを考える事にした。今日、三時に僕の事務所を訪ねて
来るお客さんは、おそらく自身の自伝か、仕事師としての口伝を本に纏め
たいのであろう。僕はそのお手伝いをするだけである。
 僕の所に来るお客さんは、極道者や水商売のオーナーと組織の中での
生き様を自伝として本という形に残す者。
 竿師、図面師、倒産整理屋、キャッシュカード屋、と数人で行動はするが、
一匹狼としての生き方の要素が強い者は、口伝という形で仕事の妙を言葉
として残したがる。
 そんな、彼等の発する言葉には、ひとりひとり強烈な個性と哲学が滲み出
ていた。
 僕はこの出版という仕事を、楽しみはじめているのかもしれない。いや、む
しろ仕事という苦行を楽しむ事が出来るようになったのかもしれない。
 生きた言葉に触れたい、さわりたいと願うようになった。と同時に、生きた
文章に衝撃を受け、打ちのめされる。
 僕が出版の仕事を始めるきっかけとなったのは、偶然、覗いた事務所のパ
ソコン画面に表示されていた、広田の小説を読んでしまったからだった。

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