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黒い百合

102 :名無し物書き@推敲中?:03/12/19 21:30
その声の主は、咲妃だけではなく北川も噂では聞いたことのある人。麻利亜先輩。人呼んで
「四十八の接吻技と五十二の抱擁技を持つ姫君」。北川の教室は混沌にざわめき、そして波紋
を投げかけた、石と呼ぶには大きい岩は、ゆっくりと咲妃の下へ歩み寄る。木造の床はまるで
音を立てなかった。誰もが彼女に道を開けた。

「咲妃ちゃん、お腹が空いているのではありませんか?」
「えっ……はい?」
 最初の一言は、その言葉。まず北川の背筋に冷たい氷が走った。続いて、麻利亜は笑みを
浮かべて咲妃の手を取り席から立たせる。そっと彼女は咲妃の耳元に艶やかな唇を寄せて――。
小さな、小さな声で囁く。北川ほど注意深く聞かなければ聞こえないだろう、その声。

「……『姉様』に知られたら、また怒られるのではないかしら?」

 咲妃の顔が強ばった。そして動揺を隠せない、集まった生徒たちに小さく礼をして、
そのまま麻利亜の手に引かれ、教室から姿を消した。その後姿を追う生徒、けれどやが
て口々に先輩と、新入生とを噂しながら、個々の行動へと戻った。
「……」
 北川は己の爪を噛み締めて。それから麻利亜の言葉を頭で反復しつつ、意味を考える。
姉様、と。また、と。怒られる、を。それはつけ入る隙か、あるいは強固な壁か。
 麻利亜の姿を思い浮かべる。今は、まだ。少なくとも昼休みの間は。
 動ける時ではないと、北川の経験が直感した。同時に我知らぬ歓びが心中を満たす――。
「……面白そうな子じゃない」

 そんな彼女の呟きに、ずっと遠くから見ていた綾野はそっと目を閉じた。
 窓辺から差し込む眩しいほどの太陽が彼女を隠す……。

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