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♀百合制作文芸スレッド♀

1 :百合の啓蒙普及運動:02/08/31 03:28
いろいろなジャンルメディアでどちらかと言えば不遇な
百合(女性同性愛)小説を語りたい人々よっといで
つくりましょーつくりましょー百合百合小説つくりましょ〜

283 :春風の指輪:04/02/16 01:45

「!」
「あ、起きましたか?」 
 私の顔を覗き込む逆さの少女。いや、むしろこの体勢は……。
「ひ、膝枕……」
「はい。先輩の寝顔、拝見させていただきました」
「……」
 情けない。
 年下の女の子の前で倒れて膝枕。その上寝顔まで見られているとは。
「どうですか? 調子は」
「ええ、とっても会長」
「……」
 ただのダジャレ。
 そんなに固まらなくてもいいと思うのですが?
「ごほん。気を取り直しまして、先輩。本当に大丈夫ですか?」
「ええ……暑さには弱くてね……」
「……」
 それでも、ここまで弱くはなかったと思うのだけれど。
「疲れているみたいですね、先輩」
「?」
「きっと……何か、あったのでしょう」
「何か?」
「思い出したくない……思い出せない、辛くて哀しいこと」
 辛くて……哀しいこと?
 覚えていない……それとも、思い出せないのだろうか。
「じゃあ、今日は……」
「ええ……」
 でも。
 どうして、あなたまで、哀しそうな表情をするの? 
「……」

284 :春風の指輪:04/02/16 01:47
「先輩?」
「もう少しだけ、一緒にいましょう」
「え……」
「駄目……かしら」
「いいえ……いいの……ですか?」
 私は、うなずいた。
「せっかくの天気だし……映画見て……ショッピングして……お昼一緒に食べて……」
 まるで約束をしていたように、自然と言葉が出る。
「一緒にお話して……日が暮れても……あなたの家でお話して……」
「せん……ぱい」
 私は、すこしだけうつむいた。
「明日もまた……一緒にいようって約束して……」
 それは。
 ただ一つの、願い。
「付き合って……くれないかしら……」
「……」
 少女は。
 コクン……とうなずいた。
 
・・・

 夜。
「ん……」

 夏休みが始まる。
 通信簿を受け取り、私と朱姫は二人、並んで帰っていた。
『先輩。夏休み、空いていますか?』
『……空いていないわ』
『そう……ですか』

285 :春風の指輪:04/02/16 01:48
『なに残念そうな顔しているの』
『だって……』
 不安に顔を曇らせる朱姫。
 私は肩をすくめた。
『あなたがどれだけ嫌がっても、夏休み中、私はあなたと一緒にいるからね』
『あ……』
 顔を赤らめる朱姫。
『はい! 先輩、大好きです!!』
『……私は大嫌いよ』

 帰り道。
『夏休みぐらい、私の手料理食べてくださいね?』
『……どうしようかしら……』
『腕によりをかけて作りますから! 前、先輩倒れていたし……ちゃんと魚食べてます?』
『……』
 先日、抱きかかえられて家まで運ばれたことを思い出し、顔を赤らめる。
『せ、せいぜい豚汁でも作ってみなさい!』
『はーい』
 クスクス、クスクス。
 朱姫は笑う。
『でも明日は、雨だそうですよ?』  
『そうなの?』
 夏休みの初日が雨、というのも少し不吉。
 そんな不安を振り切るように、笑う私たち。
『でも……今日から、一緒にいられますよね?』
『そうね……』

286 :春風の指輪:04/02/16 01:52
 
 つい、と。
 ふと、曲がり角を曲がった瞬間。
『?!』
 不注意だった。
 前から、巨大で黒い影。
 動けない。
 迫る恐怖に、ただ、動けない。
『先輩ッ?!』
 朱姫の声に我にかえる。
 でも――もう遅い。
 その車は、逃げようとする私の身体をまるで蟻のように轢き飛ばそうと――。
(逃げられない……!)
 私は、そう悟り、目を瞑る――。
 一瞬。
 蒼黒の髪が踊った。
『ッ!』

 そして 身体が 一度 大きく 震え。
 まるで 人形の ように 崩れ 落ちる。

『え……?』
『せんぱ……い』
 鮮血が散った。
 まるで華が、咲き乱れるように。
 朱姫という名の華が。
 まる で 消えて しまう かの ように。
 キシキシと、トラックに触れたまま朱姫の身体が、音を立てる。
 きゃあ、という誰かの叫びが遠くに聞こえた。

287 :春風の指輪:04/02/16 01:53
『なに……?』
 首をかしげる。こんなことが、あっていいはずがない。
『先輩……』
『ね……どうしたの……? あなた身体が……変……』
 ああ、こんな。
 両腕がなくて、身体が捻じ曲げられて。
 言葉を紡ぐたび、コホ、コホと紅の霧沫が散り。
『ごめんなさい……両手で止めようしたけど……無理で……』
『なにをいって……?』
 わからない。
 わからない。
 こんなの、わからない……!!
『先輩……ごめんなさい……』
『謝るところじゃない!』
 認めさせないで。
 これが現実だと、認めさせないで…っ…!
『ごめん……なさい……』
 でも。
 それでも、謝る朱姫。
『一緒に……いられない……』
『そんな、そんな……!』
 そんな言葉。
 私は、聞きたくないのに。
『ずっと……一緒だって……いったじゃない!!』
『先輩……』
『嘘つき! 嘘つき! 嘘つき! 嘘つき!!』
『そう……ですね……』
 朱姫の首が、僅かに傾いだ。

288 :春風の指輪:04/02/16 01:55
『明日は……雨だけど……その次の日は晴れだから……』
『……?』
『……二人で……映画見て……二人で……ショッピングして……私の作った……おいしいお昼食べて……』
 ああ。
 こんなときでも笑う、朱姫。
『一緒にお話して……日が暮れても……私の家でお話して……明日もまた……一緒にいようって約束して……』
『朱姫……!』
『もう……叶わない…夢に……なってしまいました……』
 朱姫の膝が、力なく崩れる。
 その潤んだ瞳を、私に向けたまま。
『ごめんなさい……先輩……』
 カシャン。
 まるで硝子の割れるような音と共に、身体が、崩れる。
 瞳が、光を失っていく。
『朱姫……ッ!!』
『私……先輩のこと……好きだった……』
 最後の、言葉。
 最後の、意志。
 最後の、心。
 最後の、朱姫。

 私が告げられなかった、言葉があった。

・・・

「……」
 そうか。
 やっと、気がついた。

289 :春風の指輪:04/02/16 01:56
「先輩……」
 少女――朱姫が、月明かりの下。
 はかない微笑みを浮かべて、立っている。
「それで、どうします?」
「……」
 どうする。
 望みは一つ、けれど。
「選択……出来ないでしょう……?」
「……」
 少女は困った表情を浮かべる。
「それでも……ああ、十分贅沢したわね。一日だけど、二人一緒にいて」
 確かに、幸せだった。
 それは夢の時間。
 いつか覚める、忘却のなかでの時間。
「先輩……」
「……」
 気づいてしまったから、もう時間がない。
 時間がない。
「ねえ……あなたは、どうだった?」
「……?」
「これまでの時間……私と一緒にいた時間」
 その「これまで」が、この一日だけではないことは明らかだった。
 少女の表情が、ほんの少しほころぶ。
「……幸せでした。大好きな人と一緒にいて、自分の作った料理食べてくれて、同じ部屋で寝て……」
 小さな、この静寂の中でなければ聞き取れない声。
「……まるで……夫婦みたいに」
 風が揺らぎ。少女の蒼髪を撫でる。
「そして……好きな人を護れた……」
 微笑。
「これを幸せといわずして、なにを幸せというのでしょう?」

290 :春風の指輪:04/02/16 01:56
「そう……」
 煌々と輝く月明りの中、微笑む少女は、誰より何より綺麗だった。
 私は。
「朱姫」
 その名を、呼んで。
 その小さく、細い背中に手を回して。
 温かい手のひらに、自分の手のひらを重ねて。
「……」
 風が吹く。
 季節外れの、春の風。
 二人を取り巻く、穏やかな風。
「……」
「っ……」
 抱擁。
 触れるだけの、キス。
「あっ……」
「ねえ、朱姫……」
 告げる言葉。
 告げなくては、ならない言葉。

「私……朱姫のこと、ずっと愛しているから……」
「先輩……」
 それは、誓い。
 いままでもこれからも。
 ただ一つ、ただ一人のための――想い。
 朱姫の瞳から、雫が一滴。
 その唇から、一言。
「……はい」

291 :春風の指輪:04/02/16 01:59
 かすれるような声。
「私も……由葵を……永遠に……愛しています……」
 誓い。
 誰に誓うでもない、それは一つの想い。
 たった一つの――、二人だけの。
 結婚の誓い。

 やがて。
 抱きしめている、身体の感触が、消えていく。
 不思議と、恐れはなかった。
 ずっと二人だと。そう、知っていた。
「……」
 沈黙。
 静寂。
 ただ、風が、風だけが動くもの。
「……」
 指先に。
 触れる、風。
 象る。
「……」
「……」
 対なる、指輪。
 刻まれた言葉は、永遠 絆。
 最後の風が去った。

 後に残されたのは。
 私。
 指輪。
 消えない、想い。


292 :春風の指輪:04/02/16 01:59
・・・
 
 8月30日。
 夏休みも、もう終わりだった。
「長いようで短い……か」
 また、明日から学校が始まる。
 朱姫のいない学校。
 それは限りなく違和感があり、あるときは哀しくなるときがあるかもしれない。
 でも。
 つながった、二人の想いは切れることはない。
 もう、忘れることはない。
 だから。
「……いこうか。朱姫」
 私は、笑顔で。 
 一陣の風と共に歩いていこう。


293 :名無し物書き@推敲中?:04/02/16 02:11
うわ、大事なところで欠落あり。
・・・
 安心したせいか、一瞬のデジャヴュを追いかける間もなく私の意識は薄れた……。

『……先輩……」
 ――……朱姫。
『夏ですね……せっかくの日曜日ですし、どこか行きます?』
『そうね。朱姫はどこかに行きたいの?』
『いえ、特には』
『じゃあ買い物に出かけましょうか……欲しいものがあったらいいなさいね』
『え? いや、そんな、悪いですよ』
『いいの。私があげたいだけだから』
『でも……』
『いいの!!』
 
 セミの声。
『ふう。少し暑いですね』
『そうね……』
 ひょい、と日陰に入る。
 夏休み前だというのにこの暑さ。猛暑はどのくらい暑いのだろう。
 気が滅入る。
『……ん?』
 ガラスのショーケースを見ている朱姫。
 私が覗き込むと、いくつか宝石の指輪が並んでいた。
『ジューンブライトの売れ残りですね』
『でもやっぱり高いわね……』
 七つ横並びの数字に目を見張る。

294 :名無し物書き@推敲中?:04/02/16 02:12
『……』
『欲しいの?』
『え、ええとその……』
 困惑して、小さく嘆息する。
『……そのうち』
『そうね……』
 私は軽く、笑った。
『結婚指輪かな?』
『え?』
『なんてね』
 私は呟き、呆気にとられる朱姫の前を歩く。
『せん……ぱい』
『ほら、別のところいくわよ』
『は、はい!』

 夕暮れ。

295 :名無し物書き@推敲中?:04/02/16 02:20
>>282の途中に入ります。

けっこう古い作品で、私の記憶が確かならば中古屋で「人形師の夜」の一巻を
買って読んだときに真似して書いたもの。時代的には2年前でしょうか。
ヒロインの名前なんと読むのかも忘れました(爆)。

296 :名無し物書き@推敲中?:04/02/17 16:40
>295
乙です。面白かった。
主人公は失恋でもしたのかなと思ったら、そういうことでしたか。
中盤からの展開がなかなか。ラストも綺麗にまとまってますな。
ハッピーエンドではないかもしれないけれど、こういう話も好きです。

>ヒロインの名前なんと読むのかも忘れました(爆)。
な、なんだってー(AA略
朱姫はあけ…み? 由葵は……ゆあおい?だと変だしなぁ。
ちょっと気になるので頑張って思い出してください(w

297 :名無し物書き@推敲中?:04/02/20 05:30
うわあ…
久しぶりに見たら、なんか、やたら高レベルな作品が二つもアップされてる。
七草のほう、既出の通り、瀬理のキャラが面白いし、そのキャラの一人称だからト書きまでダレずに読めました。
せりふ回しもいちいちツボで、私が少しダークなのが好みってことを差し引いても、文句のつけようが。
あえていえば、設定見て更に面白いって思っちゃったので、やっぱり本文中で、もちと分かり易かったらよかったかも。
でも、何となく想像はつく感じですが…

「春風の指輪」。せ、切ない。でも読後感さわやかで、ちと救われたかも。
短い短編なのに起承転結しっかりしてるし…。
残された指輪とか、風と共に歩くとかってあたりが、表現として好きだなぁ。
あと、指輪に関する小さなエピソードを入れてたり、せりふの反復の使い方もすき。

よかったら、また書いてくださいー。続きでも新作でも。


298 :名無し物書き@推敲中?:04/02/22 06:28
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/net/1077397760/

299 :名無し物書き@推敲中?:04/02/29 22:01
保守

300 :名無し物書き@推敲中?:04/02/29 22:03
保守

301 :某ブラックストーリーのパクリ。:04/03/01 00:27



 片田舎の街角で。
 馬車のいななき声が、耳に聞こえていました。
「元気でいてください。それから――」
 私は、見送り人の隣に坐る子犬を見ます。
 その子犬はあどけない顔をしていました。私がこれから、遠いところへ行くということが分かっていない
ように。その顔を見ていると、胸がツキンと痛みます。
 子犬の名前は、ペルチッセ。私の大事な子犬です。ふさふさの毛をした雌犬で、この土地で拾ってから、
一年近くも一緒に生活してきたのです。ペルチッセは大型犬で白い毛の種ですが、少し身体が弱く、いつも
見ていないと危ないところがありました。ですから私もこの子犬に対してはとても愛着があり、こうして
別れることは、他の誰との別れよりも哀しいのです。
 私は一年前、道で倒れていたこのペルチッセを拾いあげて、自分の部屋へと運び迎えました。
 部屋を上げて、餌を食べさせるとペルチッセはその後、私に懐くようになりました。それからずっと一緒
にいたのですが、この度私が遠くの都会に行くこととなり、身体の弱いペルチッセをこの地に置いていくこ
とになったのです。面倒は、隣に住む初老のお婆さんに任せることになりました。
「――がんばって」
 私がペルチッセの頭を撫でると、彼女は分かったのか分かっていないのか。いつもと同じように首を小さ
く上げて、くぅんと鳴き声を鳴らします。馬のいななき声よりも、それは私の耳に大きく聞こえました。
 私は馬車に乗り込みました。
 馬車は、すぐに車輪を回して、がらがらと、走り始めます。景色があっという間に通り過ぎていく、私は
今日、この街を出て行くのです。一度馬車の窓から振り返ると、ペルチッセの姿が小さく見えました。次第
にペルチッセの姿は離れていきます。私はペルチッセの姿が見えなくなるまで、見えなくなっても、ずっと
後ろを見ていました。

302 :某ブラックストーリーのパクリ。:04/03/01 00:29



 私の都会での生活は、あっという間に過ぎていきました。
 その間ずっと忙しく、田舎から手紙が来ても読む暇すらなかったのですが、しかしペルチッセを預けてい
るお婆さんの手紙だけはいつも読み、返信していました。送られてくるほとんど内容は田舎の状況や変化で
したが、たまにペルチッセのことが書かれていると、私の心はとても弾んだのです。
 けれどペルチッセがまだ私を探して街中を歩いている、ということが書かれていると、とても悲しくなり、
今すぐにでも田舎に飛んで帰りたくなる気持ちでした。つらい気持ちを堪えて、私は都会の鶏肉を買い、
ペルチッセに食べさせてあげて、と田舎へ送ったりなどしました。とはいえ時が経つにつれて、そういった
内容はなくなっていき、それがほっとする内面、少し残念にも思いました。
 私が都会に来てから、一年が過ぎました。

 ある日初老のお婆さんから手紙が届きました。その内容とは、「自分の目が老いて見えなくなったが犬の
ペルチッセが安全に手を引いてくれる。とても賢い犬だ」というものです。私は人の助けになるペルチッセ
のことを誇らしく思う反面、何故か胸が痛みました。そのときの手紙の返信に、何故かペルチッセのことを
書くことができませんでした。
 やがてさらに時も過ぎると、お婆さんからの手紙にペルチッセのことが書かれていることは、次第に少な
くなっていきました。私も、お婆さんからの手紙をあまり読まなくなりました。どうしてか知らないけれど、
私はペルチッセがお婆さんに懐いていることに、少し怒っていたようなのです。
 私はペルチッセのことを思わなくなっていきました。


303 :某ブラックストーリーのパクリ。:04/03/01 00:31



 都会の用事が人段落したときには既に三年が経過していました。
 田舎からの手紙を読むたび、日進月歩の様子に驚かされます。今あそこはどうなっていることでしょう。
ふいに私はペルチッセのことを思い出して、今の彼女に会いにいこう、と思い立ちました。荷物を軽くまと
めると馬車に乗り、私は田舎へと懐かしい思いにとらわれながら、都会を出て、田舎へ戻っていきます。
 ガタンゴトンという車輪の回る音は出かけたときと同じでした。私は馬車の中で夕焼けを向かえ、夜を
迎えて、いつしか眠っていました。そのとき夢を見たのかもしれません。
 目を覚ますと、すでに田舎の街の近隣にいました。馬車に揺れながら田舎の街につくと、街並みはだいぶ
変わっていました。私の馬車だけでなく、いくつもの馬車が走り、停場もたくさんあります。
 私はもとの家の近くで馬車を降りました。

 家の様子は変わっていませんでした。懐かしい家の前に立っていると、様々な音が聞こえてきます。子供
のはしゃぐ声や若者たちの声。鳥の鳴き声など、さまざまな音の喧騒が耳に飛び込んできます。そのとき、
静かに戸が開く音が聞こえました。
 私は、大きな犬と、犬に手を引かれているお婆さんの姿が目に止まりました。
 ――ペルチッセ。私がそう思ったとき、犬は一声大きくほえて、お婆さんを見上げました。お婆さんは
小さな声でペルチッセになにやら囁いたようです。ペルチッセは、お婆さんの手を離れて、トコトコと四足
で私の元へとやってきました。
「ペルチッセ」
 私が呼ぶと、ペルチッセは私の足元にすりより、何事か窺っているようでした。しかし私が誰だか分かっ
たのでしょう。嬉しそうにしっぽを振って、私の足をペロペロと舐めます。私がくすぐったさと心地よさで
笑っていると、お婆さんが私を呼びました。私がお婆さんのところへ向かうと、ペルチッセもお婆さんの
ところへ向かい、お婆さんの隣にちょこんと坐ります。なんとなく寂しさを感じましたが、別れて三年も
経過しているのだから仕方ないと思いました。


304 :某ブラックストーリーのパクリ。:04/03/01 00:35

4 

 お婆さんは私を喜んで迎え入れてくれました。
 スープやパン、野菜など懐かしい料理に囲まれながら、私はお婆さんに都会の話を聞かせます。お婆さん
は嬉しそうに聞いていました。私が話している間、ペルチッセはお婆さんの足元でスープを飲んでいました。
私がペルチッセのこれまでの様子をお婆さんに聞くと、大分ペルチッセは身体が強くなり、お婆さんにも懐
いたようです。私を探しに街へ出かけることもなくなり、いつもここでこうして一緒にいると聞きました。
 私はその晩、元の家で泊まりました。
 さて朝になり。私はせっかく戻ってきたのだから、田舎の人々にあいさつをしようと思い、お婆さんとペ
ルチッセと、三人で街へ出かけました。街は大分変わっていて、入り組んだ道に迷ってしまいそうでしたが
お婆さんに案内されつつ、いろいろな家を回っていきます。何件もあいさつをしていくうちにお昼になり
ました。お婆さんは何か食べよう、と市場へ向かいます。市場には大衆食堂がたくさん作られているのだそ
うです。私もそれについていきました。

 馬車が道をとても早く走っていました。私は慎重に、気をつけながら歩きます。轢かれたらひとたまりも
ありません。道端の小石なども飛んできて、危ないところでよけました。
 そのとき私はあっと息を呑みました。遊んでいたらしい小さな幼い女の子が、馬車道に入り込んでいた
からです。女の子は、馬車の目の前にいました。女の子がいることに気づかず、馬車は女の子に迫ります。
私はあまりのおそろしさに目を閉じて。そのとき、そして犬の吼える声が聞こえました。
 ペルチッセです。
 私が目を開けると、ペルチッセが猛然と女の子へ向かっていくのが見えました。そして、なんて鮮やかに
ペルチッセは女の子を助けたのでしょうか。女の子は馬車道の外へと押し出されて、ペタンと座りこみます。
ペルチッセは女の子が歩いていたところにいて――そして。
 馬の鳴き声と犬の鳴き声がしました。

305 :某ブラックストーリーのパクリ。:04/03/01 00:37
「ペルチッセ!」
 私とお婆さんはペルチッセの元へ急ぎます。ペルチッセは吹き飛ばされ、馬車道から少し外れたところに
うずくまっていました。そのふさふさの白い毛からは血が流れています。見れば肉が裂けています。
お婆さんはペルチッセの元へと近づき、その傷口に触れようとしました。そのとき、ペルチッセはよほど
痛いのでしょうか、唸り声を上げて、お婆さんを近づけません。あげくにお婆さんに噛みつこうとさえ
するのです。
「ペルチッセ」
 私は痛々しい姿のペルチッセに近寄ります。
 ペルチッセの唸り声が止みました。
「がんばって。ね、ペルチッセ」
 私はペルチッセの身体を抱え上げます。ペルチッセは哀れな、か弱い声で鳴きました。ペルチッセは、
私の腕を自分の歯に挟みました。けれど、噛み付こうとはしませんでした。私はペルチッセを抱えあげた
まま、病院に向かって走ります。
 ペルチッセは、私の手のなかで大人しくしていました。

 さて、その後ペルチッセの傷は次第よくなり、また元気になりました。
 さて、私はやがてまた、都会に行きました。もちろんペルチッセを連れて。
 ペルチッセは今、私の部屋にいます。そして、私が頭を撫でると小さく首をあげて、くうんと愛らしい
鳴き声を鳴らすのでした。


306 :名無し物書き@推敲中?:04/03/01 00:43
牝犬もの……かな。

307 :名無し物書き@推敲中?:04/03/02 11:03
ペルチッセが実は人間の少女とか? ……違うか。

308 :名無し物書き@推敲中?:04/03/02 22:51
ベルチッセはきっと
‘私’が大好きなんだね

309 :名無し物書き@推敲中?:04/03/11 21:41
すごく好きなんだよ
保守

310 :名無し物書き@推敲中?:04/03/11 23:10
age

311 :ある建築技師の話:04/03/12 14:40
 虹は七色というけれど、私は無限の色彩を見たことがあります。
 無限の色彩、それはあまたに鏤められた宝石の玉座。あなたの細い腰、赤石の唇に香油髪ふくよかな胸、
あなたは白の光に抱擁される世界の女王。孔雀の安楽椅子に腰掛けるときの美しい姿。無限の色彩、それは
あなたのいと尊い肉体。私はあなたと繋がっていたことを思い返し、どのような熱情であなたを愛したこと
でしょう。
 私は広大な大陸に住む中国人の中であなたほど美しい人を知りません。

 そして。
 シーフォーは詩を書きながら、列車の外を見たのです。窓の外を眺めたとき、彼女は故郷の思い人のことを
思い出しました。それは窓の外の茜色に、自分があの人を見つめる頬を想起したために。そして今もシーフォ
ーの頬は夕日に染まります。
 そのとき列車は音を鳴らしながら北の故郷へと向かっていました。今日中には着くでしょう。シーフォーは
再び筆を見つめ、藁の紙に薄黒色の墨をなぞります。シーフォーは中国人ですが、漢詩ではなく英語の詩を
書く人間でした。そして彼女は詩人ではなく、建築技師の職人でした。シーフォーの詩は一人の人間について
思う故に書かれるものであり、それはその人間への手紙に他なりません。けれど手紙に宛て名は書かれて
いませんでした。
 列車はシーフォーの身を揺らし、その度に文字も震えます。シーフォーは詩を書き続けました。けれど詩に
ある名前は、美しい名と書かれているだけであり、詩に語られるそれが何者かは分かりません。
 故郷に列車は着きました。シーフォーは降ります。

 最初に出迎えたのは、シーフォーの恩師であるチョンヤンでした。
 彼は北の地方の訛りを披露しながら、シーフォーのことを迎え入れます。随分会っていないため、彼の
黒髪には白髪が交ざりそのことが少し驚きとなりました。縞馬の髪の毛は、けれど賢人の頭に似合っている
気もします。

312 :ある建築技師の話:04/03/12 14:42
「元気かな」
「ええ、おかげさまで。こちらでは何か変わりがありましたか」
「いいや。田舎ではとくに目新しいことも起きんさ。皆相変わらず、だ。ところでシーフォー、何を持って
いるのかね。お土産にしてはずいぶん小さいのだが」
「見ますか?」
 シーフォーは恩師チョンヤンに自分の書いた詩を見せました。恩師チョンヤンが英語を読むと、次のような
一文が記されていることが分かります。

 我が愛しい人、人生の教師であり、お茶汲みの美味しい人。

「これは私のことではないね」
「はい。別の人のことを表しています」
 するとチョンヤンは笑い、シーフォーの肩を叩きます。シーフォーは詩を返してもらってから、恩師に尋ね
ました。
「ところでここにはあなたしか、いらっしゃいませんか?」
「ああ」
 それでは、とシーフォーは恩師と別れ、自分の家へと向かいました。

 道中、見かけたのは野菜畑です。黄金の作物が実り広がっていました。雨もほどよく降ったのでしょう、
水は穴に溜まり小鳥の囀りのように小さな音を鳴らしながら、田んぼへと流れています。シーフォーは
野菜畑の畦を踏み、靴を土で濡らしても自分の家へと歩いていきました。
 その野菜畑を抜けた時。牛飼いのモジュンがシーフォーに声をかけます。彼はシーフォーの家の二つ隣に
住む、村一番の大男でした。力自慢であり今も牛を従えています。昔の凄まじく荒れた目はこの数年で消え
失せ、代わりに大岩のような静かな光を瞳に湛えていました。
「シーフォー、帰ってきていたのかい」

313 :ある建築技師の話:04/03/12 14:43
「ええ。今日に列車で」
「そうか。ところで何を持っているのかな。俺へのお土産だと嬉しいのだが」
「では見てみますか」
 モジュンはシーフォーに手紙を受け取り、その英語に頭を悩ませながらも読みます。彼はかろうじて次の
ような一文を読み上げることができました。

 あなたは牛を脅かす、それほどに怖い人。けれど優しい。
 
「これは俺のことではないな」
「はい。残念ながら、あなたへの土産ではありません」
 すると彼は笑ってシーフォーの背中を叩き、彼女に詩を返します。
 やがてシーフォーは牛飼いと別れ、自分の家へと急ぎました。

 古いシーフォーの家は昔に彼女が設計したそのままになっています。戸は木造、屋根は藁。形は硬い材質の
円筒に柔らかな円錐が乗っているというものです。風の抵抗が少なく丈夫、窓はないけれど、光を屋根から
取り入れる特殊な構造をしていました。
 これはシーフォーが建築技師として最初に手がけた家の建築であり、外国の建築技法を真似た思い出深い
造りです。家具も円形のものに変えましたが、それは自分と思い人が力を合わせて造ったのでした。
 シーフォーは自分の家の前で一人の乙女に出会います。
 それは美しい人でした。艶やかな背筋。すらりとした清水のような黒髪。瞳は黒曜石の光を湛え、白絹の
頬を夕暮れに染め、どこか明るく光を身に纏う姿、まるで仙女が人へと転じたよう。
 そのどこか遠くを見ている瞳は、誰か人を待っているようです。シーフォーは誰だったのかを、その瞬間に
悟れませんでした。やがて乙女はシーフォーを認めると小走りに駆けてきます。
「シーフォー!」
 その声に始めて彼女が何者かを悟りました。
 幼なじみのシンレイです。シーフォーは駆けてくる彼女を抱きとめました。
「ただいまシンレイ」
「お帰りなさい、シーフォー。待っていたのよ」

314 :ある建築技師の話:04/03/12 14:44
 そういって、シンレイはシーフォーの肉体を抱きしめ返します。シーフォーはシンレイの美しい腰を引き
寄せ、互いの鼓動を伝え合いました。静かな心臓の動きを。吐息のほのかな温かさと薫。やがて二人は離れ
て、シンレイは瞳に浮かぶ雫を拭い、シーフォーを家の中へと誘います。
 シーフォーは誘われるまま、自分の家へと入りました。

「シーフォー、それは?」
 と、シンレイはお茶を煎れながら尋ねます。シンレイのお茶はシーフォーの母直伝の美味しいお茶であり、
それを味わいながら椅子に座って彼女は手に持っていた詩をシンレイに渡しました。それを一目見ると、
シンレイはわずかに瞳を開いて驚きます。
「詩かしら」
「シンレイ、英語を読めるの?」
「ええ。勉強したから。ええと……」
 シンレイは詩をすべて読みます。そして次の一文を歌いました。

 私はあなたを愛するがゆえに、彷徨っている。

「これは――」
「シンレイのことよ」
 と、シーフォーは言いました。するとシンレイは鈴の鳴るような声で笑います。
「うそつき」
「ええ? それはどうして」
「だって私は分かっているから」
 シーフォーはシンレイの言葉に、黙ってお茶を啜りました。


 夜は深く。シンレイも自分の家へと帰った頃、家の戸が静かに開きます。それからその戸を開いた人影は
椅子に座るシーフォーの顔に、少し驚いた様子を見せて。シーフォーは彼女に語りかけます。

315 :ある建築技師の話:04/03/12 14:46
「……お帰りなさい、お母さん」
「帰っていたの」
 白く美しい月明かりに照らされる人は、若さを失った白髪の老婆。彼女はシーフォーの母でした。母は
戸を閉めて、老いた足を床に滑らせながら、シーフォーの元へと近寄ります。それから彼女の頭を撫でると、
頬染めるシーフォーにそれきり興味を無くしたように寝室へと向かい。シーフォーは母を追いかけるとその
隣に並び、自分の書いた詩を渡しました。宛て名のない手紙は本人に渡されて。
 そして母はシーフォーを見上げます。
「これは?」
「お土産。一応ね」
「何が書かれているかを知ることはできないわね。英国の文字など、読めないわ」
 そういってため息をつく母はシーフォーの詩を懐にしまい込むと、寝床へと去り行き。シーフォーは母の
後ろ姿を見つめていました。母はそれから一度だけシーフォーを振り返り。
「……懲りないのね、あなたは。この数年離れていたのに、まだそのままなのかしら」
「うん。ごめんね」
 シーフォーは母の言葉に頷きます。
 母はそれきり。黙ったまま、夜の深い闇の中へと。

 建築技師は夜の風に歌います。
 金色の月。あなたの白雪肌、木造の部屋に余韻を残します。この私とあなたの家に。
 あなたの瞼が閉じようとも、私の瞳はあなたを見つめるために開き、真夜中の暗闇を見つめています、
また聞きながら。そして私はこの暗闇に酔うのでしょう。葡萄の酒よりも遥かに。
 あなたの寝息に胸を焦がす熱情を思いながら。

 それから。
 シーフォーは空に浮かぶ月を見上げて、今日は三日月なのだと知りました。
 大きいその弓は、美しい色をしていたのです。

316 :名無し物書き@推敲中?:04/03/13 00:06
シーフォーが好きなのはどっち〜!?
気になるーぅ

317 :名無し物書き@推敲中?:04/04/06 21:12
せりとなずなの話の続きが読みたいなぁ、と言いつつ保守。

318 :名無し物書き@推敲中?:04/04/08 22:23
――食べられた?女貴族な夜食――


 金貨のベッドに身を横たえ 最上級のワインを飲めば 快いヒュプノスの眠りなど 瞼の上へと
 降りかかり 心地よい眠気に 夜の音なきそよ風を 細くか弱い身に感じ
 私は夜の眠りへと落つ。
 
 夢に現れた 美しき方 私の亡くなった母にも似て 魅力的な麗しい方
 それは意図せぬ来訪者 私の傍にある金の輝きを見ることなく 不安に曇る私に
 春の小川の揺れるような まなざしをむけ 織り糸のようにゆるゆると 指先をはためかせ
 私をよぶ
 誘われるがままに力強い抱擁を 美しき人へと委ねると 眠りよりも安らかな
 没薬の香り、ミルテの唇。首元を歯が撫でて 喉元を唾が伝い
 そして女同士の優しい口づけが 私の戸惑いを快楽に変えた

 恋の口づけは甘いけれど 融けた鉄の液体のように熱く 鳥の羽のように軽い 胸当てを
隠す黒のローブをはだけて 彼女は誘う 小ウサギを そのウサギは 柔らかな乳を揉みしだく
乳首すらも柔らかい 桃色と白のふわりとした感触は まるですぐにも消えてしまいそうにか弱くて
心細い
 彼女は微笑んだ 微笑み、それから私を抱いた 胸の薫が鼻をくすぐる 大きな胸から
立ち上る しっとりとした汗と 彼女の薫。

『愛しきを この抱擁に任せれば ほんの弁えさえもぬぐい捨て 私に立ち向かうこそ
娘らしい甘えというに 口元も 尊き竪琴を忘れ ただ沈黙に結ばれた その硬紐は何事か。
いかに愚かな女といえど 金の輝きがそれほどに恋しく 心奪われるものでもなかろうに』
『麗しい人よ 誇らしい乳房は柔らかい 唇はあなたの唇を求めている 素肌は糸に覆われ窮屈。
弄びたまえ、私の全身を 臆病な飼い犬の胸は 私の愛する人の手を望んでいる』

319 :名無し物書き@推敲中?:04/04/08 22:25
 牝鹿の 乳の味はどれほどのものか 閉じた蝶の羽に接吻すると どのような味がするだろうか
けして愛らしい人との口づけに 代えられるものはなかった そよ風の愛撫 樫の木を愛でて
葉を裏返す 猫の毛皮をくすぐり 森の空気を清める それはかの美しき方より紡がれた指先。
 胸は牡丹のように大きく開き 子供が母の優しさをねだる如く 私は熱情を求め 薔薇の
微笑みに感謝した ああウグイスよ いつに鳴く もしも夜が明けなければ とこしえに世界は
輝いていたというのに

 目が覚めて 歓びが朝の薄い光に消えうせる
 ベッドの金は既になく ただ胸の切なさと 誰のものとも知れぬ
 崩れた人の骸骨が 虚しく朝日に翳されて 首元に 夢の証か ただの奇病か
 二本の不思議な牙の跡 未だこの血を滴らす

320 :名無し物書き@推敲中?:04/04/08 22:28
>>317
最近は小説を書く暇がないので……(汗
お目汚しですが。

321 :名無し物書き@推敲中?:04/04/16 06:01
保守

322 :公園の森のくまさん(?):04/04/24 22:59
 ――あいや待たれい おぜうさん
 私から差し上げる あなたの大事な落し物

 光満ち溢れる昼の日差しが、さんさんと、
 噴水の涼やかな公園を照らしていた。公園には、何人もの男女たちがいて、
 またある時には小鳥のさえずり、ある時には友人の談笑、ある時には、 
路上音楽家の奏でる音など、春の野原のように豊かな音が、光の公園に満ちていた。
 まず少女は、右足でコンクリートの地面を踏むと、公園の、音ひしめく広場、
人の笑顔も明るい大きな広場にある、白く聳え立つ自販機へ、娘のまだ柔らかな足
をはためかせ、とたとたとてくてくと、歩いていく。娘の黒い前髪は大人しく、
娘の後ろ髪は暖かい風になびいている。右の瞳は栗鼠のように明るく開き、左の瞳は
愛らしい。まるで春の園に踊る妖精のよう。
右の足は柔らかく、左の足は軽い。子供のようにかろやかな足取りで、白く聳える
自販機を目指す黒い髪の娘。額には一滴の汗が流れ、然も暑そうに、篭った息を風に流す。
天使の羽のような白の生地と向日葵の刺繍が施された、可愛らしい私服には、
一枚のハンカチがあるけれど、黒い髪の娘は、あの機械の中にある、冷たい飲み物に
どうにもあしにも夢中のよう。向日葵を太陽の光に当てながら、少しだけ盛り上がっておる
その胸を、躍らせ、昼の公園を歩く娘。
 またふいに、ほんのりとした暖かい、ひとそよぎの風が吹き、娘の愛らしい、私服の
ポケットに滑り込むと、娘の小さなハンカチは、するりと抜けて、花の蜜求める蝶のように
ひらひら踊り。人多い公園の、硬い地面にポトリと落ちる、暖かい太陽ばかりは気づくけれど、
冷たい飲み物にご執心な娘は気づかずあゆあゆ、あわれやあわれ、ハンカチは迷子の子どもの
様に、ぽつんと取り残される。

323 :公園の森のくまさん(?):04/04/24 23:01

 さてゝ娘は財布より、取り出しましたる三枚の硬貨、ぽんぽんぽん、と放りまして、
手に入れたる飲料水に、口つけて、こっくこっくと飲み始めませば、たちまち天国の
心地よさ、浮かれた気分に頬も赤らみ、また少し離れたところにある、木のベンチへと
腰掛けまして、浮かれ浮かれにジュースをこくんと飲みまする。
 さすれば汗もさっと引き、はて、ハンカチはどこにあったものだろうと、娘はようやく
はたと気づき、自分のポケット探るけれど、ああかなし。ああはかなし。あのハンカチや、
今何処に?
 娘、慌てて服探り、ポケット探り、財布さえも探るけれど、あのハンカチは見つからず。
風に流れた小さなハンカチや、今は何処にいらっしゃるのか?
また浮かれ心をがっかりと、うなだれて、柔らかな頬をすぼめつつ、ちょびちょびと、
甘い飲み物を飲むけれど、ハンカチはそれでも戻ってこない。
 
 ――小さなハンカチ、今何処に? 娘、探しにいく、緑の豊かな公園を。
 緑の豊かな公園、たとえば木々の多く茂るところに。――小さなハンカチ、今何処に?
 ――小さなハンカチ、今何処に? 緑の豊かな公園、人通りもない森のなか。
 何や人影? 一人の影が娘を追う。 ――小さなハンカチ、今何処に?

 一人の影、娘の小さな肩叩く。娘驚き、きゃっと小さな悲鳴上げ、走れや走れの
獅子奮迅、あれと思う間に森の奥。人影小さなため息をつき、長い足で娘を追う。
 人影、長い髪を靡かせ、滑らかな足を滑らせて。その手に握られている、それは何ぞや?
 それは小さなハンカチの姿! 元気なるハンカチ、おお無事なるか!
 けれど主は気づかず。娘、森の奥の、そのまた奥へ。
 やがては木々の根に躓き、人影娘の前に立つ。森の奥なら影深く、長い人影は恐ろしい。
娘、震えてふるふると、声も出せずに脅えるばかり。
 長い人影、そっとかがめば、娘、あっと声漏らす。見ればそれは美しき女(ひと)、
枯れたすすきの幽霊に、娘はようやく気づいたよう。


324 :公園の森のくまさん(?):04/04/24 23:02
 頬赤らんで、娘は見る、女の方は穏やかな顔。コートはためく、少し寒がりな人のよう。
その美しさは春の温かみといえども。
女の方は綺麗な、手差し伸べて、ハンカチ差し出すと、娘、はっと気づいてそれを受け取る。
 また、汚れ服の、汚れた頬を、リンゴのように真っ赤に染めて、「ありがとう」などと申し上げ。
 女の方は、汚れた娘の向日葵脱がせ、薔薇の香する自らの下着、娘のために差し出すと、
躓いた足の中を持ち、娘の背中をそっと抱いて、娘の柔らかな身体を抱き上げながら、
森の外へと赴いた。

325 :名無し物書き@推敲中?:04/04/24 23:07
森のくまさんの歌詞……。
不思議だわさ。

326 :名無し物書き@推敲中?:04/05/01 13:31
どうしてなの?
だって、・・。
美香は百合から目を逸らした。
百合は美香の手にそっと自分の手を重ねた。
柔らかな薄衣に包まれた氷が解けるのを待つように。
冷たい。
美香は膝の上の手を引っ込めた。
あなたとは反対なの。中は熱いの。
百合の言葉の真意を悟ったように、
諦めて、と美香は言った。
ベンチの前を見知らぬ青年が通り過ぎて行った。
枯葉を踏みしめる乾いた音を残して。
異物、と百合は言った。
美香の視線は青年の後ろ姿を追っていた。
わたしだけを見て、と百合は美香に言った。
美香は目を閉じた。
百合は美香の薫りに近づいた。美香の髪に鼻先が触れた。
かきやりしその黒髪の筋ごとに
うちふすほどは面影ぞたつ
だめ、と美香は言った。
百合の唇が頬の側にあった。
あなたの中に異物が入るのは堪えられない。わたしの舌は優しい。
だめ、と美香は繰り返した。
明日もここに来て、百合は言った。
わからない。
美香はベンチから立ち上がった。
あなたは来るわ、百合は言った。
黄昏の迫った公園から去っていく美香の後ろ姿を見つめながら、
百合は呟いた。
夏はきっと来る。甘い氷水。また明日。

327 :桜教室:04/05/05 05:29

 一羽きりの、
 ニつ、青い翼によって広大な青い空を飛び舞う鳥の姿が、
 透明な窓硝子の枠縁から見えた。
 桜の花びらは鳥を取り囲むように、ひらゝと、踊り、風
を泳ぎ、また空気の色を桜の色と薫に染め上げて――。春
の木、桜の若葉が震えること、風が木々を揺らすたびに。
白雪のように桜はくるゝとくるゝと吹き上がり、またはら
はら・はらと、切ない霧雨のように舞い降りる。

 透明な窓硝子の中、私の息も聞こえる教室の床にも、
一つ、二つ、三つ、まだまだ――いくつかの花びらが迷い
子となって居て、春風、窓より吹き込めばその身は空気に
浮かぶ。花は風と共に去り行くこともある。
 私は教室にいた。教室には私と、私の幼なじみという、
 翠雨 あさくも(すいう あさくも)が居て、私は翠雨
のために教室を動かなかった。翠雨の机は窓側にあって、
春の穏やかな温もりに包まれ、彼女は眠っていた。
 放課後の時。授業の終わり、帰宅すべき時。
 彼女の鞄は彼女の机にかけられて。他の机には何もかけ
られていない。私の鞄は、私がこの手に持っていた。
彼女と私を除いた、他の皆は既に自分たちの家へと帰って
いる。だから、この教室には私と彼女しかいない。彼女が
机と椅子に眠るならば、私はその傍らに立っていた。
 帰るべき人は――私と、彼女の二人きり。
 けれど翠雨は眠っていた。かわゆいらしい頬を机に、
ぺたりと触れさせて。眠り・安らかな息を漏らしていた。
「眠り」という幸福の中にあって、翠雨は容易く起きそう
になかった。そしてまた、容易くはない。

328 :桜教室:04/05/05 05:30
 起こすことに躊躇いがある、私の心。何故と問われれば。
かわゆいらしい頬を机に、二つの瞳をその対とも瞼の幕に
よって隠し、安息を、大気の広がり・隅々に漏らして、
 桜と同じ色の唇を無防備に晒す姿は、稀有な期待を私の
胸に抱かせていたのだから。
 
 はるさくら ひとよはかなひ はなおもふ

 期待は、翠雨の桜色の唇を、青い鳥がさくらんぼを摘む
ように、私の唇によって摘みたい、ということ。私による、
愛情も大空なる広大のような接吻によって。
 接吻は一つの唇の上と下を、もう一つの唇に、同じよう
に重ねる行為。言葉も視線も必要としない、愛情の確認。
それはあるいは一人の意思によって為され、あるいは二人
の変わらぬ意思によって行なわれる。
 私は接吻をしたことがない。
 けれど望んだことはある。接吻が、好き合う者同士の
行為と聞いた時に。それは大分幼い頃の、まだ私を少女と
呼べた頃の思い出ではあるけれど。
 幼い頃からの。思い出と、いうのだけれど。

 翠雨。彼女との接吻を望んだこと。
 それは翠のため、春雨の滴るように、私の息に濡れた、
湿りのある唇が、彼女の熱い吐息に濡れる私の二つ唇に、
そっと優しく重なる口づけの行為を。
 私は望んでいた。それが女同士の、自然美とは呼べぬ
行いと云われるまでは。また彼女がそのことについて、
無知ではないと知っていたから――。
 愛する心をタルタロスよりも頑丈な牢獄に閉じ込めて。
冬に燃え盛る薪の炎が恋心となるとき、倫理の白雪が私
の胸の大地を覆い隠した。

329 :桜教室:04/05/05 05:31
 それは精一杯の抑制。「大人」の――がまん。

 私は彼女の、机に隠されたほうではない、素肌の頬に
人さし指を触れて、そっとなぞる。暖かく、柔らかい、
翠雨のかわゆいらしい頬。指を揺らすと、頬もふわゝと
揺れた。雲が風に流れるさまを思わせる。
 翠雨は起きるけはいを見せない。仕合せの善い夢を、
見ているのだろうか。春の花薫る空気を吸い込んで。
暖かな大気に身を包まれながら。
 指先を、その小さな口元に近づけると、翠雨の呼吸が
私の指先に触れた。吸うこと。吐くこと。翠雨は安息を
繰り返している。安らかにして静かな安息を。
 光の植物でさえこうあるまい、と思うほどに清らかな
喉元を持っている翠雨のこと、彼女の息から分かった。

 いきのはて いきいきいさふ いきかほり

 その時、硝子の窓が震えて。風が吹いてきた。
 桜の花びらが、翠雨に降りかかった。そして翠雨の、
眠る息が吸った空気に誘われて、花びらはひらゝとやっ
てきた。
 私の指先に触れると、桜の花びらはそこで止まり、
翠雨の吐く息と共にまた流れる。ふっと私は安堵する。
ほんの少し違えば、花びらこそ翠雨の接吻を手にしてい
ただろう。私の指先に、柔らかく・軟らかな花の感触が
残っていた。

330 :桜教室:04/05/05 05:32
 眠る人はそれでも目を覚まさない。私はその瞬間、
はっと不安にこの身を包まれた。悲しみが、つま先から
頭の芯まで、剣の形となって貫くようだった。先の道が
見えぬ「未来」の暗黒に目の前が包まれ、感情は巨大で
恐ろしい百足の脚に力一杯蹂躙されるような、酷い激痛
を味わった。五体は引き裂かれる。
 花びらの他、誰か・何かだったことを思ったとき。
私以外のもの。男女、人獣、魚虫、鳥植物、生きたもの、
死んだもの達。それら私ではないものたち。それらが、
翠雨の口づけに届くこと。
 誰彼、清い彼女の唇に愛の雫をもたらすものは?
 私の心は、このとき死んでしまったのかもしれない。

 青い鳥が桜の実を摘む姿は、消えた。
 私はこの身をかがめると、翠雨の安らかな寝顔に自ら
の顔を近づけた。その唇を――獣に向けた狩人の銃口の
ように、確かに狙って。ほらここに。
 私の二つある瞳は、彼女の閉じた瞼と息穏やかな口元
を、じつと見ていた。私の目には間近な翠雨の、綺麗な
素顔が映っていることだろう。もし翠雨が眠る瞼を開け
ば、それははっきり、分かると思う。
 けれど、その理解は罪の発覚。私は自らの瞳を瞼に
よってきつく塞いだ。目を閉じたとき、罪人に相応しい
暗闇・暗黒の窟を視覚する。
 あらゆる罪の形を、知っているけれど。許される罪、
許されざる罪があることも。取り返せる罪、取り返せぬ
罪があることも。この世に溢れるあらゆる罪を、私の知
識は知っているけれど。無差別な人殺し、誘拐、親の肉
を食らうこと。破壊・支配・掠奪……。

331 :桜教室:04/05/05 05:34

 私の罪は、唇の掠奪――。
 けれど私以上の忌むべき罪人を、私は知らない。


332 :名無し物書き@推敲中?:04/05/05 05:46
ゲーム・テキスト用に作った和風文章でござる候。
ひろいんの名前は結局一回こっきりのようで……(爆
まあ無意味というわけではないのですが。

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